犬種によって社会的学習に得意不得意があるだろうか?
犬が犬種によって、さまざまな行動上の違いを見せることはよく知られています。それは人間が長年にわたって、犬の機能を選択して育種してきた結果でもあります。
近年では元々の犬種が作られた時の目的とは離れて、犬と人間との関わり合いや相互作用についての関心が高まっています。特定の犬種や犬種タイプが人間との相互作用に関して、得意であったり不得意であったりということはあるのでしょうか。
このたびハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームが、人間との相互作用のひとつである社会的学習において、さまざまな犬種を評価する実験を行ない、その結果が発表されました。
V字型のフェンスの向こうの食べ物にありつく実験
犬は違う種の生き物である人間の行動を見て学ぶことがわかっています。他の者の影響を受けて行動を習得する学習を「社会的学習」と言います。
研究チームは社会的学習において、人間と協力して作業を行なう犬種と、自立して作業を行なう犬種とでは、違う行動をとるかもしれないという仮説を立てました。
協力的な作業犬種とはシェパードやコリーなどの牧畜犬、レトリーバーやワイマラナーなどのガンドッグが代表的なものです。自立した作業犬種とは、独自に狩りをするテリアやサイトハウンド、家畜番犬など人間の指示を受けずに働く犬種です。
犬たちが参加した実験は、V字型フェンスの迂回路テストです。幅3メートル高さ1メートルの金網がV字型に組み立てられて地面に設置されています。金網なので向こう側に何があるのかはよく見えます。
犬がV字の頂点の位置にいる時に、実験者はフェンスの向こう側に食べ物を置きます。犬が食べ物に到達するためには、V字を迂回しなくてはなりません。
犬たちは協力作業犬種、自立作業犬種それぞれにランダムに2つのグループに分けられました。1つは、手がかりやヒントなしに自力で迂回路を見つけて食べ物に到達しなくてはならないグループ、もう1つは、実験者が犬の目の前でフェンスの周りを歩いてV字の開いた部分まで行き食べ物に到達する、というデモンストレーションを見せられるグループです。
つまり、協力作業犬種でデモなし、協力作業犬種でデモあり、自立作業犬種でデモなし、自立作業犬種でデモありという4つの条件で実験が行われました。
テストは1回につき1分間、それぞれの犬は3回連続してテストに挑戦します。1回目は全員がデモンストレーションなしで、自力で迂回路を見つけなくてはなりません。デモ有りのグループでは1回目の後にデモンストレーションが行われ、その後に2回目と3回目のテストが行われます。
選択育種が人間の行動に注目する犬の能力に影響を与えてきた可能性
デモンストレーションがない状態では、協力的作業の犬種も自立作業の犬種も同じようにテストに失敗しました。1回目のテストで、自力でV字型フェンスの迂回路を見つけられる犬はいなかったというわけです。
しかし、実験者がフェンスを迂回するデモンストレーションを見せた後では、協力的作業の犬種は明らかに成功率が高くなり、有意に短い時間で食べ物に到達しました。一方、自立作業の犬種では時間の短縮は見られませんでした。
犬の飼育条件(屋内で飼われているか、屋外で飼われているか、など)や過去の訓練レベルは、問題解決能力や時間の短縮に影響を及ぼしませんでした。
この結果は、犬の協調性や個々の作業能力を選択してきたことが、人間の行動に注意を払う犬の能力や意欲に影響を与える可能性を示しています。
なお、デモンストレーションがない状態で自力で試行錯誤した犬たちの成功率は、どちらの犬種グループでもほぼ同じでした。
まとめ
V字型フェンスを迂回して食べ物に到達するという実験で、人間のデモンストレーションを見た後に協力的作業の犬種は迂回路を短時間で見つけられたが、自立作業の犬種では時間の短縮が見られなかったという結果をご紹介しました。
興味深いことは、「協力的な作業の犬種群」「自立した作業の犬種群」と言ってもそれぞれの犬種は遺伝的に近縁ではないということです。
例えばコリータイプの犬とポインタータイプの犬とでは、遺伝の系統樹では違う枝に属しています。自立作業の犬種でもテリアとシベリアンはスキーは違う系統です。どんな因子が違う系統の犬のよく似た行動をもたらしたのかは今後の研究課題のひとつです。
この研究は今後もさらに興味深い発見を届けてくれそうです。楽しみですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13122001