犬の利き手は飼い主の影響を受けている?
何かをする時に右手を使うか左手を使うかという「利き手」は、人間だけのものではありません。犬や猫でも右利きと左利きの両方がいることが確認されています。
最も古くから家畜化され現在も人間にとても近い場所で生きている犬の場合、どちらの手(前足)を使うかは、飼い主の真似をして影響を受けているということはないのでしょうか?
この点についてイギリスのリンカーン大学の生命科学の研究者と、イタリアのトレント大学心理/脳科学の研究者が調査を行ない、その結果が発表されました。
犬の利き手を調べるため2つの課題を10日間実行
この研究には、一般から募集された60頭の犬と飼い主が参加しました。犬たちは0〜12歳、40頭が純血種で20頭が雑種犬で、60人の飼い主は右利きの人が50名、左利きの人が10名でした。
飼い主には自宅で行う2つの課題が与えられたそうです。課題は10日間に渡るのですが、毎日連続して行わないこと、課題を行う時間は毎回違う時間帯にすること、という制限がありました。
その後、今度は反対の手を後ろに隠し、もう片方の手を犬に差し出し記録するという同じことをします。犬が前足を上げなかった場合はその旨を記録します。最初にどちらの手を見せるのかは、毎日ランダムに変えるよう指示されています。
2つめの課題は「リーチ」です。飼い主が選んだ物体(おもちゃでもトリーツでも)を犬が簡単には取れない場所に置くのですが、物体を置いている間、犬はその様子を見ています。
物体を置く場所は、犬が口では取れないが前足なら楽に入る場所と指定されています。飼い主は物体を置いた場所から少し離れ、犬が左右どちらの前足を使って物体を取ろうとしたのかを記録します。
犬が物体に触れなかったり口を使った場合には、その旨を記録します。犬にストレスが蓄積しないよう60秒で取れない場合は、課題を中止します。
犬の利き手に影響を与えるのは性別、年齢、飼い主の利き手
2つの課題を10日間行なったデータを分析した結果、どちらの課題においても飼い主が右利きの場合は犬も右前足を使う傾向が強く、飼い主が左利きの場合は犬も左前足を使う傾向が強いことがわかりました。
「お手」課題において、飼い主が犬の前に差し出した手が右か左かは、犬が持ち上げる足がどちらかには影響していませんでした。
この調査結果は、飼い主の利き手が犬がどちらの前足を使うことを好むかに影響していることを明確に示しています。犬は飼い主の行動を見て、どちらの前足を使うのかを学習している可能性があります。
飼い主の利き手以外の因子では、犬の性別と年齢が犬の利き手を有意に予測するものでした。メス犬はオス犬よりも右利きの傾向があり、高齢のオス犬は若い犬よりも右利きの傾向を示しました。
メスの場合は全ての年齢を通して右利き傾向を示すのに対し、オス犬は子犬期には左利き傾向を示し、成犬期およびシニア期には右利き傾向を示しました。これらは過去の他の研究結果とも一致しています。
犬の不妊化手術の状態は、利き手の傾向には関連していませんでした。今後は犬の利き手の傾向に影響する可能性のある性ホルモンや年齢ホルモンについて、さらに研究が必要だとのことです。
まとめ
犬が左右どちらの前足を使うかという利き手の傾向には、飼い主が右利きの場合は犬も右前足を、左利きの場合には犬も左前足を使う傾向があるという調査結果をご紹介しました。
犬が左右の前足のどちらを使うことを好むのかに、どんな因子が影響を与えるのかを明確にすることで、介助犬のマッチングやトレーニングに役立つ可能性が高くなります。
一般の家庭でも、犬がどちらの前足を使うのかを私たちの行動を見て学んでいると知ると、犬への愛おしい気持ちがいっそう強くなりますね。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s10071-022-01673-x