歩く速度と認知機能の関連は犬にも当てはまるのか?
人間の認知症と犬の認知症には多くの共通点があり、そのため犬の認知症は数多くの研究が行われています。
人間の場合、歩行速度は認知機能の低下と強く関連することがわかっており、高齢者を対象とした老年医学の評価において歩行速度はとても重要な要素です。
歩行速度と認知機能の関連は犬にも当てはまるのでしょうか。このたびアメリカのノースカロライナ州立大学の老年学の研究チームが、このことを調査した結果を発表しました。
シニア犬と成犬の歩く速度を測定
この調査に参加したのはシニア犬49頭と成犬46頭でした。シニア犬は同大学獣医学部で行われている神経老化の研究に参加している犬たちです。
シニアの定義はそれぞれの予測寿命の75%以上としています。(予測される寿命が10歳の犬種なら7.5歳以上、15歳の犬種なら11歳3ヶ月以上)また、歩行に影響する疾患(関節炎や神経系の疾患など)がある犬は参加していません。
対照となる成犬は同大学のコミュニティへの募集で選ばれました。年齢は1歳以上〜予測年齢の75%未満です。
シニア犬たちは認知機能テストを受け、さらに飼い主が認知機能評価のための質問票に回答して得られた、認知機能スコアに基づいてグループ分けされました。
犬たちはハンドラーと共にリードをつけた状態と、トリーツを持ったハンドラーがゴール地点で犬を呼び、リードなしの状態で5メートルの歩行をそれぞれ3回連続で行い、スタートからゴールまでのタイムが測定され、3回の歩行の平均速度が算出されました。
歩行速度が遅い犬ほど認知機能が低下していた
歩行テストの結果、特に重要だったのはリードなしの状態での歩行でした。リードなしの場合は、身体能力とゴール地点で待っているトリーツへの意欲の両方の影響を観察することができました。
歩行速度が遅いシニア犬ほど、認知機能がより低下していました。これは飼い主が回答した質問票から評価されたスコアに基づきます。また歩行速度が遅いシニア犬は認知機能テストのスコアも低く、特に注意とワーキングメモリーの領域に強く関連していました。
このテストには重度の関節炎の犬は参加していませんが、関節痛があるシニア犬でも認知機能が低下していない犬の歩行速度は遅くなっていませんでした。
研究者はこの結果から、シニア犬の歩行速度を測定することは、認知機能の低下を含む健康状態を観察記録するための簡単で効果的な方法として役立つ可能性があると述べています。
5メートルという短い距離とトリーツを使う方法は、一般の動物病院でも再現が簡単なので、シニア犬に行う簡単なスクリーニングとしても使える可能性があります。
まとめ
犬も人間と同じように高齢になって歩く速度が遅くなっていることは、認知機能の低下と関連しているという調査結果をご紹介しました。
犬の老化を観察する時に重要なのは、運動能力と認知能力の2つです。運動能力は骨や筋肉だけではなく神経系に依存しており、運動能力が低下すると神経系へインプットされる情報も減少するという相関関係があるので、歩行速度と認知機能に相関関係があるのは当然とも言えます。
シニア犬と暮らしている方は、愛犬の歩き方や歩くスピードを注意深く観察してみてください。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2023.1150590