上手に付き合いたい愛犬の老化
犬種や個体差がありますが、犬の平均寿命は14歳前後です。日本人の平均寿命が80歳代だということを考えると、単純計算で犬は人の6倍程の速さで年を取っていくことになります。そうなると、一緒に暮らし始めた愛犬の介護は避けて通れないと考えた方が良いでしょう。
これも犬種や個体差がありますが、犬がシニア期に入るのは一般的に7歳頃で、この頃から徐々に老化による影響が見られ始めます。つまり、老化現象を見せ始めた愛犬との付き合いは、長丁場になるのが当たり前になってきているのです。
当然ですが、年を重ねることで犬も今までできていたことがだんだんできなくなってきます。これは愛犬自身にとってもつらいことですし、愛犬をサポートしたり後片付けの手間が増える飼い主さんにとってもつらいことです。
愛犬の介護生活を、愛犬も飼い主さんも共に快適で楽しく過ごすためには、愛犬の老化と上手に付き合えるような工夫がポイントになります。最もハードルが高いと思われる「お漏らし」を取り上げ、その原因や対処法、工夫のポイントなどを考えていきましょう。
老犬のお漏らしの原因
では、老犬のお漏らしの原因には、どのようなことが考えられるのでしょうか。
1.足腰の筋力低下
まず見た目にも分かりやすい老化現象が、足腰の筋力低下です。トイレの中で踏ん張れなくなり、おしっこを出しきれなくなるために、常に膀胱におしっこが溜まった状態になることで、お漏らしの回数が増えてきます。
また足腰の筋力が低下することで、よろけたり足運びがおぼつかなくなって歩く速度が遅くなることも、お漏らしの原因になります。尿意を感じてからトイレに向かっても、トイレに辿り着くまでに時間がかかり、間に合わなくなるのです。
2.尿道や膀胱に関わる筋力の低下
腎臓は常に血液をろ過して尿を作り出し、その尿は膀胱に溜められます。ある程度溜まると溜まった尿を排出し、絞り出します。膀胱に溜まった尿が漏れ出さないように尿道への通路を閉じたり、溜まった尿を絞り出したりするためには、膀胱や尿道の筋肉が使われます。
これらの筋肉も老化により筋力が低下しますので、膀胱にたくさんの尿を溜めておけなくなったり、排尿時にしっかりと絞り出せずに膀胱を空にできなくなったりすることも、お漏らしの原因になります。
3.認知症
人間と同様に、犬も老化により脳の機能が低下して認知症を患うことがあります。
認知症になると、排尿のコントロールが上手くできなくなったり、トイレの位置が分からなくなり辿り着けなくなったりして、お漏らしをしてしまうこともあります。
4.病気
犬は年を取ることで、膀胱の筋肉をコントロールするホルモンの分泌量が減る「ホルモン反応性尿失禁」や、排泄機能のコントロールが上手くできなくなる「脳腫瘍」や「椎間板ヘルニア」というような脳神経系の病気や、多飲多尿の症状があらわれる「糖尿病」「腎不全」「クッシング症候群」などの病気にかかりやすくなります。
このような病気が原因で、犬がお漏らしをするようになることも少なくありません。
5.薬の副作用
直接病気の症状としてお漏らしをするわけではありませんが、他の病気を治療するために飲んでいる薬の副作用で、お漏らしが増える場合もあります。代表的な病気は痒み止めなどとで投与されるステロイドでしょう。
薬の副作用が原因の場合は、お漏らしの症状を軽減させられる別の薬に替えられる場合もありますので、かかりつけの獣医師に相談すると良いでしょう。
老犬のお漏らしの対処法
では、上記のような理由で老犬がお漏らしをしてしまうようになってしまった場合、どのような対処法があるのでしょうか。
お漏らしをしても褒める
疲れている時に愛犬がお漏らしをすると、飼い主さんはつい感情的に叱ってしまうかもしれません。しかし「おしっこをしたから叱られた」と勘違いをして、おしっこを我慢してしまうようになることがあります。
おしっこの我慢は、愛犬の健康のためには悪い影響しかありません。愛犬がお漏らしをしても決して叱らずに、「おしっこをしてえらかったね!」と褒めてあげましょう。口に出して褒めることで、愛犬も飼い主さんも気持ちが明るくなることでしょう。
先回りして介助する
愛犬の排泄の時間、排泄量、排泄前後の行動などを日々記録しておくと、だいたい愛犬の排泄パターンを把握できるようになります。
そうすると、「そろそろおしっこをしたくなる頃だ」と先回りをして愛犬をトイレに誘導できるため、間に合わずにお漏らしをしてしまうという事態を回避しやすくなります。
トイレまでの距離を短くする
愛犬が自力で歩いてトイレに行ける間は、できるだけ歩いてトイレに行かせることが望ましいです。
トイレに間に合わなくなることが増えてきたら、広範囲にペットシーツを敷いておく、トイレの数を増やす、愛犬の行動範囲がコンパクトに収まるようにするなどの工夫で、トイレまでの距離を短くしましょう。
おむつを利用する
おむつは、寝たきりになってしまった場合にだけ使用するものではありません。まだ歩ける場合でも、お漏らしの頻度が上がってきたら利用しましょう。
最初はおむつを嫌がる子が多いので、かわいそうだと思われるかもしれません。しかし、こまめにおむつを交換し、清潔な状態を保つことさえできれば、愛犬は室内で自由に過ごせますし、飼い主さんも後片付けが楽になるため、お互いが快適に暮らせるようになります。
まとめ
犬も人間も、生きている以上老化は避けて通れません。そして、老化による体力や能力の低下は、愛犬自身にとってもお世話をする飼い主さんにとってもつらいことです。長く付き合うことになるであろう愛犬の介護生活を、できるだけ明るく楽しく、そしてお互いに快適に過ごしたいものです。
そのためにできる工夫はたくさんあります。便利な介護製品もたくさん市販されていますし、かかりつけの動物病院やドッグトレーナーなど、相談に乗ってくれる専門家もいます。
気持ちを明るく持ち、専門家に相談をしながら、愛犬の老化と上手に付き合っていけるよう、さまざまな工夫を凝らしましょう。