犬による咬傷事故への環境要因の影響を調査
夏の暑さは人や動物の体に大きな影響を及ぼしますが、体だけでなく感情や衝動性にも影響があります。そこに大気汚染による空気の悪さが加わると、さらにイライラやカーッとする気持ちが増えることは容易に想像がつきます。
過去の研究では気温や大気汚染の度合いが高くなると、暴力的な犯罪が増えることがわかっています。
アメリカのハーバード大学の大学病院の研究者チームは、犬による人間への咬傷事故も、気温や大気汚染といった環境要因に影響されるのかどうかを調査し、その結果を発表しました。
咬傷事故の記録と気温や大気汚染のデータを分析
この研究では犬による人間への咬傷事故のデータとして、アメリカの8都市の動物管理局の一般公開記録が使用されました。8都市の2009年から2019年までの10年間の記録から合計69,525件のデータです。
8つの都市は、テキサス州のダラスとヒューストン、メリーランド州のボルチモア、ルイジアナ州のバトンルージュ、イリノイ州のシカゴ、ケンタッキー州のルイビル、ニューヨーク州のニューヨーク、カリフォルニア州のロサンゼルスです。
環境要因のデータは、それぞれの日の最高気温、降水量、紫外線量、大気中のPM2.5の24時間平均値とオゾンの8時間平均値が使用されました。
PM2.5とは、待機中に浮遊する小さな粒子のうち2.5μm(マイクロメートル)以下の極めて小さい粒子のことで、物の焼却やガソリン車から発生し、炭素、硝酸塩、硫酸塩、ケイ素など様々な成分が含まれ、呼吸器系や循環器系の病気のリスクを高めると言われています。
オゾンは酸素原子3個からなる気体で、約90%が成層圏に存在しています(オゾン層)。成層圏内の大気の流れによってオゾンが運ばれて来ることがあり、オゾンと工場や自動車から排出される化学物質が紫外線によって化学反応を起こすと、光化学スモッグとなります。
日差しの強い暑い日、スモッグの多い日が高リスク
分析の結果、犬による咬傷事故は気温とオゾン、そして紫外線量の上昇とともに増加していました。気温、オゾン、紫外線との関連性は冬季でも冬季以外の季節でも一貫して同じでした。一方、PM2.5を含む大気汚染は犬の攻撃性に影響しないようでした。
なぜこれらの環境要因が咬傷事故の増加に関連しているのかについても考察されています。紫外線についての過去の研究では、紫外線照射後にマウスや人間の男性で性ホルモンの増加が示されており、これが攻撃性の増加に関連していると考えられます。
攻撃性とオゾンとの関連は、オゾンが気道に入り込み肺機能障害を引き起こすことに起因している可能性があります。
人間ではこのような状態になった時に、免疫や炎症反応に関連する経路などが活性化され、それが視床下部下垂体副腎系(ストレス応答や免疫、情動などに関連)も活性化させることで行動に影響が及ばされることから、犬の場合にも同じことが起こっている可能性があるといいます。
まとめ
犬による人間への咬傷事故は、気温の上昇、紫外線量の増加、光化学スモッグによる大気汚染とともに増加するというアメリカでの調査結果をご紹介しました。
この調査では、動物管理局に報告されるような重度の咬傷のみが対象になっているので、救急医療が必要ではないものも含めると、犬による咬みつきはもっと多い可能性があります。
環境要因が揃えば犬が必ず攻撃的になるというわけではありませんが、人間もイライラしがちな環境では犬に不要な我慢をさせたり焦らしたりするような行為は、より注意深く避けるべきだと知っておく必要があります。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-35115-6
https://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-10ozone.html