なぜ犬の咬傷事故は無くならないのか?イギリスでの調査結果

なぜ犬の咬傷事故は無くならないのか?イギリスでの調査結果

犬の咬傷事故を防ぐために必要なのは犬の規制なのでしょうか?それとも人間の行動を変えることなのでしょうか?イギリスでの調査結果をご紹介します。

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イギリスで犬の咬傷事故増加を受けて、対策のための研究

女性を咬んでいる犬のイラスト

犬が人間や他の動物を咬んで怪我をさせてしまう咬傷事故は、公衆衛生上の大きな問題です。多くの国や自治体が犬による咬傷事故を防ぐための規制を設けたり、動物行動学や獣医学の研究者が、咬傷事故の根本的な原因を調査したりといった対策を講じています。

イギリスでは1991年に制定されたDangerous Dogs Act(危険な犬に関する法)の中で、特定の犬種の飼育が禁止されています。禁止されている犬種は、ピットブルテリア、土佐犬、ドゴ・アルヘンティーノ、フィラ・ブラジレイロで、伝統的に闘犬として飼育されてきた4犬種です。

しかし特定犬種規制が30年以上も施行されているにも関わらず、イギリスで犬による咬傷事故が無くなることはなく、過去5年間ではイングランドとウェールズの警察記録において、咬傷事故が34%増加したと報告されています。

この警察記録の結果を受けて、イギリスのエッジヒル大学人間動物研究センターの研究チームが特定犬種規制に代わる戦略を見つけるためのサポートとなる調査を行ない、その結果が発表されました。

一般の人は犬の危険をどのように認識しているかを調査

上目遣いで伏せる犬

この調査にはソーシャルメディアグループを通じて配布された公開アンケートが使用され、寄せられた1,535名からの回答が分析されました。

アンケートの内容は、犬のどのような行動が「危険」と認識されているか、犬のボディランゲージに対する理解度、犬の行動やリスクに関する情報をどこで得ているか、咬傷事故が起きる状況についての認識などが含まれていました。

回答者のうち88.6%は現在犬を飼っている人で、そのうちの約4分の1は犬を飼うのは初めてという人たちで、87%の人が「自分は犬に好かれ、犬の扱いが上手」だと考えていたそうです。

犬との暮らしは初めてという人も含め大多数の人が、犬とのコミュニケーションに自信を持っていることがうかがえる数字です。しかし、質問票に含まれていた具体的な犬のボディランゲージや、リスク管理についての認識は回答者の自信とは裏腹なものでした。

犬の咬傷事故の被害者の大多数は子どもなのですが、回答者の44%は「犬は子どもに対して優しくしようと努めており、子どもを咬むことを避ける」という設問を正しいと回答し、「犬が子どもを咬んだ時、ほとんどの場合に親がそばにいなかった」という設問には、半数の人が正しいと答え、この2つは誤りであり、正解率は3割に届きませんでした。

犬のボディランゲージについても誤った認識が多く見られ、特に攻撃的なボディランゲージについては、犬が歯を剥き出しているような明確なもの以外は誤解している回答が目立ちました。

犬が何かを怖がっている時には、抱きしめたり撫でたりするというリスクの高い行動を示す回答もありました。

犬の習性やトレーニングについての情報をどこから得ているかという質問には、約半数の人がテレビ番組、3分の1はドッグトレーナーのアドバイスと答えました。

咬傷事故を防ぐには人間への教育が不可欠

女の子を追いかける犬のイラスト

研究者はこれらの回答について、人々は「犬は本質的に優しい」と考えたり、犬の行動や感動を擬人化して捉える傾向があると述べています。

調査結果はまた、犬のボディランゲージに対する人々の理解不足を明確に示していました。犬が不快感やストレスを示していると読み取れないまま犬に近づくことは、咬傷事故のリスクを高くします。

犬に関する知識が不足している理由は、明確で正しい情報が不足しているからだと考えられます。半数の人がテレビ番組を犬についての情報源にしていると答えていますが、テレビの情報は正しいものばかりではありません。

3分の2の回答者から「何が犬に関するリスクにつながるのか、もっと公的な情報が欲しい」という声が寄せられ、研究者は調査結果を受けて「政府は時代遅れの特定犬種規制を撤廃し、飼い主のサポートに焦点を当てるべきだ」と述べています。

具体的には、飼育が難しい犬種にはライセンス制の導入、犬についての情報キャンペーンの開始、低所得の飼い主を対象とした地域主導のドッグトレーニングへのアクセスなどを提案しています。

まとめ

袖口に噛み付いている犬

イギリスでの調査から、人々は一般的に犬のボディランゲージを読むことやリスクの高い状況を認識することが苦手で、咬傷事故防止のためには教育や啓発に的を絞ることが重要だという報告をご紹介しました。

犬のボディランゲージやリスクの認識については日本でも当てはまる点が多いかと思います。犬の咬傷事故を防止するために取り組むべき対象は犬ではなくて人間という認識は、規制を作る人や犬と暮らす人だけでなく、全ての人に伝えたいことです。

《参考URL》
https://research.edgehill.ac.uk/en/publications/public-perceptions-of-dangerous-dogs-and-dog-risk
https://www.edgehill.ac.uk/new-research-reveals-links-between-dog-attacks-and-misunderstanding-of-dog-behaviour/
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/69263/dogs-guide-enforcers.pdf

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