カナダでの60歳以上のペットの飼い主へのインタビュー
犬や猫などのコンパニオンアニマルと暮らすことは、身体面やメンタルヘルスの面で多くのメリットがあるという調査結果は数多く報告されています。
中でも高齢の方については、孤独感を癒したり地域社会との接触を増やしたりというメリットは重要なものです。
一方で、高齢の方が健康上の問題で動物の世話ができなくなったり、施設に入居するために動物を手放さなくてはならないという事例も数多くあります。
カナダのカルガリー大学地域健康科学の研究者は、高齢者とコンパニオンアニマルについての研究を長年に渡って継続しており、この度は60歳以上の飼い主14名へのインタビューから分析した結果が報告されました。
ペットがくれるもの、ペットでは満たせないもの
この調査では社会/経済的に多様な参加者を募るために、シニアセンターや公立図書館でのポスター、動物保護施設でのチラシ、口コミなどの方法で、60歳以上でペットと一緒に地域で自立して暮らしている人を募集しました。
調査のためのインタビューには14名が参加し、このうち12名が一人暮らしでした。14名のうち7名が猫、6名が犬、1名が犬と猫とウサギを飼っていました。
参加者のうち2名は「猫たちは孤独な私に大きな癒しを与えてくれる。しかし猫たちでは満たせない孤独もある。」「昼間は愛犬とドッグパークに行き他の人々との交流もある。でもパークから帰る時に、他の人たちと違って家に帰っても家族がいないと思うと辛くなる。」と、猫や犬のおかげで孤独から救われているけれど十分ではないと話しました。
また別の2名の参加者は、さまざまな事情で賃貸住宅を引っ越さなくてはいけなくなった時に、飼っている犬や猫のために新しい住居が見つからず困難な状況に陥っていることを明かしています。
高齢にさしかかると身体面での不安や病気を抱える人も多くなります。治療費など経済的な不安も重なる中で、犬や猫の世話をすることが最大の心の拠り所になり、困難を乗り越える支えになったと語った人も複数いました。
最も現実的な問題として、ペットの世話にかかる費用のために自分自身の生活の質を低下させていると語る参加者も複数いました。
インタビューからは、人生の後半において動物と暮らすことのポジティブな面とネガティブな面の両方がうかがえます。
参加者全員が、コンパニオンアニマルが孤独を和らげ、他者をケアするという機会を持つことができ、深い感情的なつながりをもたらすというポジティブな面を認めています。しかし個々の事情や状況によっては、ポジティブを上回る負担があることも事実です。
高齢者とペットの問題は当事者だけでなく社会全体の問題
上記のような事情を踏まえて、「だから高齢者は動物を飼うべきではない」というのは簡単なことですが、社会正義の観点から言えばそれは不当でもあります。
社会正義という言葉や概念は18世紀のヨーロッパで生まれたもので、社会の構成員である人々が平等に扱われ、社会全体の福祉の保証と秩序の維持を実現すること、とされています。
この研究はカナダのアルバータ州カルガリー市で行われたものですが、高齢者のためのペット可住宅や手頃な価格の住宅の不足や、そこから来る継続的な社会的不公正は日本においても共通しています。
「高齢者はペットを飼うべきではない」というのは、動物福祉からのみの観点です。高齢者向けのペット可住宅の不足は、動物福祉が全く欠けた観点です。
このように高齢者とそのコンパニオンアニマルをバラバラに扱うのではなく、動物福祉と人間の社会サービス機関を結びつける努力が必要であると研究者は強調しています。
動物福祉と人間の社会サービス機関を結びつけるためには、公的私的両方の住宅提供者、獣医師、医療提供者、フードバンクや動物保護などのチャリティ団体、地域の条例担当者などが、セクターを超えて協力し合える環境を作ることが理想です。
高齢者は動物と暮らすことで得られるメリットがあり、行き場のない動物にとっては保護者が得られるメリットがある。これらは当事者以外にも地域社会にとって間接的なメリットであり、そのためのセクターを超えた支援策は政策レベルで検討する価値のあることです。
まとめ
高齢の方にとって、コンパニオンアニマルは心身両面の大きな支えであると同時に、費用面からの生活の質の低下や住宅問題への直面など、切実なリスクも伴うことがあるという調査結果をご紹介しました。
実際にこれらの問題に対処するには、自治体など政策レベルでの支援がなくては不可能です。このような問題を明らかにし社会全体に訴えるために、今回のような調査研究が行われているのは心強いことだと思います。
日本でも政治家や福祉関係者の皆さんが、このような研究に目を向け参考にしていただければと強く願います。