音や視覚の刺激は犬の学習に影響を与えるだろうか
介助犬や探知犬など人間のために働く犬は、作業に集中することがとても重要です。しかし働く環境によっては騒々しい環境や大きな音など、犬の集中力を削ぐ妨害が発生することも少なくありません。
これらの妨害にも慣れるため、さまざまな音のある環境でのトレーニングを導入する場合があります。しかし騒音など外部からの刺激が、働く犬のパフォーマンスや学習効果にどのような影響があるのかは明らかになっていませんでした。
この点について、イギリスのリンカーン大学生命環境科学の研究者チームが、聴覚や刺激への刺激が犬の学習能力に与える影響を調査するための実験を行い、その結果が発表されました。
3つの違う状況でトリーツの位置を学習する実験
実験に参加したのは同大学のボランティアデータベース、またはSNSを通じて募集された24頭の家庭犬でした。実験はドアで仕切られた2つの部屋(試験室と控え室)で行われました。
試験室には天井に聴覚刺激のためのスピーカー、壁には視覚刺激のためのストロボライトが取り付けられています。控え室には何も設置されていません。この状態で犬たちは部屋を自由に探索し環境に慣れておきます。
控え室のバケツのどれかにはトリーツが入っていて、犬は自由な状態でバケツの中を覗き込みトリーツを食べることを繰り返し、犬たちはバケツを覗いてトリーツがあれば食べても良いということを学習しました。
次に、試験室の9つのバケツのうち常に同じ位置の2つのバケツにトリーツが入れられ、犬たちは自由にバケツを覗いてトリーツを探します。
その後、犬が試験室から出ている間に、再度同じバケツにトリーツを入れ、犬が部屋に戻ってトリーツを探すことを繰り返します。犬が他のバケツを確認することなく、3回連続してトリーツの入ったバケツに直行するまで繰り返されました。
次に犬を12頭ずつ2つのグループに分けて、12頭は無音、6頭は聞いたことのない音がスピーカーから流れる状態、6頭は壁のストロボライトが点滅する状態で、試験室のバケツ実験が行われ、前回とは違うバケツのトリーツの位置に、3回連続で直行できるまでの回数が各条件で比較されました。
犬の初期学習は静かな環境で行うことが大切
犬たちが他のバケツを確認することなく、3回連続トリーツに直行できるまでの試行回数は、無音の場合では平均18.57回、スピーカーから音が流れる状況では平均31.03回と、有意な違いが見られ、ストロボライトによる視覚的な刺激では、無音の場合と有意な違いは見られませんでした。
しかし、一旦トリーツの入ったバケツの位置を学習した後では、無音でも有音でも犬たちはほぼ同じパフォーマンスを示したといいます。
この実験の結果から、犬が何かを学習する際に初期の段階では、妨害するもののない静かな環境で行うことが望ましく、聴覚刺激に慣れるためのトレーニングは学習を完了してからにするべきだと結論づけられました。
まとめ
聴覚刺激のある環境では無音の場合と比べて犬の学習効率が悪くなるため、学習の初期段階においてはトレーニングは静かで気が散らない環境で行うべきだという研究結果をご紹介しました。
この研究では作業犬が例に出されていますが、これは一般的な家庭犬についても同じです。基本的なトレーニングは静かで安全な家庭内で完了することが大切です。家庭内のトレーニング時も、テレビや音楽を消して静かな環境を作ることで学習効果がアップすると考えられます。
初期学習は静かな環境でというポイントを知っておくと、プロのドッグトレーナーに依頼する場合にも選択のポイントのひとつになりますね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2023.105977