大型犬の寿命はなぜ小型犬よりも短いのだろう【研究結果】

一般的に大型犬の寿命が短い傾向はよく知られていますが、その理由を明らかにした研究結果が発表されました。

更新日：2023年06月18日

なぜ犬は他の動物と違って小さい方が長生きするのか？

マスティフと4頭のチワワ

自然界では、動物は体が大きい方が長生きするという一般的な法則があります。極端な例で言えば、小さなハムスターの平均寿命は2〜3年であるのに対して、ゾウの場合は60〜70年生きることができます。

しかし犬の場合には、この法則が当てはまりません。チワワやヨークシャーテリアなどの小型犬は13〜17年の寿命が期待できますが、マスティフなど超大型犬では8〜10年です。

このような犬の寿命とサイズの逆転現象について、オーストラリアのアデレード大学生命科学の研究者チームが調査した結果が発表されました。

セントバーナードの親子

この研究では、すでに公表されている多くの情報源から集めたデータが分析されました。164の犬種について、出生時の体重、成犬時の体重、何歳で成犬時の体重の50％に達するか、1度の出産で生まれる子犬の数、平均死亡年齢、最も多い死因などが調査されました。

収集されたデータからは、すでに知られている通り小型犬よりも大型犬の寿命が短いことが確認されました。

また大型犬種では、1度の出産で生まれる子犬の数が多いこともわかりました。ヨークシャーテリアの出産では子犬の数の中央値は3頭で、イングリッシュマスティフでは中央値が9頭です。

大型犬の死因では小型犬よりもガンで亡くなる可能性が高いこともわかりました。犬種の平均体重が増えるにつれて、ガンの発生率も上がること明らかになりました。

3つの成長ステージのラブラドール

なぜ大型犬ではガンの発生率が高いのかについて、研究者は過去に発表され現在も支持されている「使い捨ての体理論」と一致していると説明しています。

「使い捨ての体理論」とは、生き物の体は生殖によって種を存続させるために、個々の体の老化や損傷を修復して使うよりも、生殖にエネルギーを集中して個々の体は使い捨てにするというものです。

生き物はより多くの子孫を残すために、生涯の早い段階に成長や生殖に多くのエネルギーを投資します。

しかし投資できるエネルギーは無限ではなく、成長や生殖に多くのエネルギーを投資した場合は、細胞やDNAが損傷した時の修復に投資できるエネルギーが少なくなります。細胞やDNAの損傷とは老化や病気を指し、ガンに対する防御も細胞の損傷修復に含まれます。

大型犬では、成犬になるまでに小型犬よりも時間がかかると言われていますが、出生時の体重から成犬時の体重になるまでの細胞分裂の回数は、中小型犬よりもずっと多いものです。

これは大型犬では投資できるエネルギーが、損傷した細胞の修復や免疫機構の強化よりも成長に使われることを意味します。

ガンは細胞分裂の際に起こる突然変異から生じるので、成長のための細胞分裂の回数が多く、修復のために使われるエネルギー資源が少なくなってしまった大型犬は、ガンになる可能性が高いのです。

研究者は、大型犬は祖先であるオオカミよりも体を大きくする選択的繁殖のスピードが早すぎたため、ガンに対する自然な防御に進化がついていけなかったことを指摘しています。

しかし大型犬もいずれ進化して、ガンに対する自然な防御力を取り戻すだろうと研究者は予測しています。大型犬のブリーダーが長寿で病気に対する防御力の高い犬を選択的に繁殖させるようになれば、進化のプロセスを早くすることができるでしょう。

チワワとグレートデーン

大型犬の寿命が短いことについて、体を大きくするための選択的繁殖によって、ガンが発生しやすく防御力も低くなったためという研究結果をご紹介しました。

人間の手による選択繁殖のせいで起こった進化の遅れは、人間の手によって修復されなくてはなりません。このような研究結果は、大型犬の選択繁殖の改善のために非常に重要です。

また犬は人間とほぼ同じ環境で生活しているため、この研究が人間の老化やガンの研究に役立つことも期待されます。