犬の幼少期の過酷な経験は成犬になっても影響を残すだろうか?【研究結果】

犬の幼少期の過酷な経験は成犬になっても影響を残すだろうか?【研究結果】

幼少期に劣悪な環境で生活していた背景を持つ犬は、成犬になってからも行動や飼い主への愛着に何らかの影響を残しているでしょうか?新しい研究結果をご紹介します。

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幼い頃の辛い経験と成犬になってからの影響を調査

犬舎の中の子犬

幼い子どもの頃に経験したことが、成長した後の人格形成にも影響を及ぼすという例は、人間では往々にして見られます。特に子どもの頃の辛い経験は、人々の行動や人格への影響が強いものです。

同じようなことは犬にも当てはまるのでしょうか?この点について、アメリカのネブラスカ大学オマハ校の心理学の研究者チームが実験と調査を行い、その結果が報告されました。

過去の研究で犬がストレスを感じる状況では、保護者(飼い主)の存在が犬のストレスを和らげることがわかっていますが、幼い頃に過酷な経験を持つ犬にも、これが当てはまるかどうかも同時に調査されました。

見知らぬ人から与えられるストレスに対する反応を調べる実験

警戒している様子の雑種犬

研究のための実験と調査に参加したのは、SNSを通じて募集された45頭の犬と飼い主さんたちでした。

45頭のうち23頭が幼少期に劣悪な生活環境に置かれていた犬として分類されました。その内訳は、管理が不十分な商業繁殖施設(いわゆるパピーミル)からのレスキュー20頭、ペットショップ出身2頭、多頭飼育崩壊からのレスキュー1頭でした。

彼らの平均年齢は7.87歳、現在の家庭に迎えられてからの年数は平均4.21年と、現在は幸せに暮らしている成犬たちです。

残り22頭は、自宅や農場で繁殖している良心的なブリーダーから来た犬9頭、動物保護団体またはアニマルシェルターから来た犬9頭、個人宅から来た犬1頭でした。

この22頭は飼い主の知る限り、トラウマ的な生活環境を経験していません。彼らの平均年齢は6.61歳です。

犬たちはランダムに2つのグループに分けられ、1つは飼い主と一緒に実験に参加、もう1つは飼い主と離れて研究員と一緒に実験に参加しました。この研究員は、先に別の部屋で犬と飼い主と一緒に過ごす時間を取っています。

実験は、犬と飼い主または研究員が一緒にいる部屋に別の研究員(犬にとっての見知らぬ人)がすり足で入って来て、犬の目を見ながら手を後ろで組み、上体を少し曲げてゆっくりと犬に近づくというものです。

すり足や上体を曲げた姿勢は、犬にとって見慣れない奇妙な行動に見えるのが目的で、犬にとっての緩やかなストレスになります。

研究員の行動は約30秒間続けられ、実験中と実験の前後4分間の犬の行動が録画して観察分析されました。犬が強い恐怖を示すジェスチャーや逃げようとした場合には、実験は即座に中止されました。

実験の後15分間隔で3回犬の唾液を採取して、唾液中のコルチゾールの値が測定されました。コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、ストレスを感じた時に分泌されます。

コルチゾールの濃度は、何らかのストレスを感じた15分後に上昇することから、3回のうち1回目の唾液は実験開始前の状態(2グループのうち1つでは飼い主との分離の時)、2回目の唾液は実験でストレスを感じた時、3回目の唾液は飼い主と再会または飼い主と2人きりになって、ストレスからの回復期の状態を反映しています。

犬の行動観察や実験とは別に、飼い主はC-BARQという犬の行動解析のための質問票に記入して、愛犬の普段の行動についての情報を提供しました。

劣悪な環境での生活は後々まで影響を及ぼす

人の手に乗せられた犬の足

見知らぬ人が奇妙な態度で近づいて来た時、劣悪な過去を持つ犬の半数は恐怖の反応を示しました。これは、飼い主が一緒にいる場合も飼い主不在の場合も同じでした。

吠えたり唸ったりした犬は非常に少なく、フレンドリーな反応が約2割、ニュートラルな反応が約2割でした。

劣悪な過去を持つ犬で飼い主と一緒にいたグループでは、飼い主に寄り添ったり舐めたりといった接触行動や、見知らぬ人を見た後に飼い主と視線を合わせようする行動が多く見られ、飼い主によってストレスを和らげようとしていた様子がうかがえました。

比較対照群の劣悪な過去を持たない犬たちの場合、見知らぬ人への反応は恐怖反応が最も少なく、吠えたり唸ったりした犬は36%、フレンドリーな反応は36%、残り約2割がニュートラルな反応でした。

劣悪な過去を持たない犬の場合、飼い主が一緒にいたグループではリラックスした様子で探索する行動が多く見られました。

これは劣悪な過去を持つ犬は、見知らぬ人が脅威なのかどうかを確認するのに飼い主に頼るのに対し、そうでない犬たちは飼い主がいると安心して、脅威なのかどうかを自分で確かめることを示しています。

このように、劣悪な環境で暮らした過去を持つ犬とそうでない犬では、見知らぬ人に対する反応が全く違っており、劣悪な過去を持つ犬は飼い主をストレスを和らげる存在と見なし、精神的なサポートとして必要としていることが示されました。

また、劣悪な過去を持つ犬はそうでない犬たちに比べて、唾液中のコルチゾール値の平均値が高くなっていました。これは幼少期の劣悪な生活環境の影響が、持続的に残っている可能性を示しています。

実験中のコルチゾール値では、劣悪な過去を持つ犬は1回目と3回目の測定値を比較した時に、3回目の数値が著しく減少していました。

これは飼い主と再会または飼い主と2人きりになった時に、ストレスからの回復がより大きかったと考えられます。対照群の犬ではストレス時と回復時の差はもっと小さいものでした。

飼い主による犬の行動評価では、劣悪な過去を持つ犬は「見知らぬ人への恐怖」「大きな音などへの恐怖」「分離不安」「訓練性の低さ」がある傾向が見らたそうです。

これら実験や調査の結果から、「生後、間もない頃に生活環境が犬に永続的な影響を与えることを示している」と結論付けられました。

まとめ

犬にキスする女性

パピーミルや多頭飼育崩壊など劣悪な環境での生活した過去を持つ犬は、成犬になってからもその影響があるという研究結果をご紹介しました。

胸が痛くなるような報告ですが、これらの犬たちにとって飼い主さんが安心できる存在であり、精神的に強くつながっているという点には少しホッとしました。

このような研究は劣悪な環境から保護された犬のケアやリハビリテーションに役立てられたり、パピーミルやネグレクトなどの有害な影響について注意を促すために有効です。

《参考URL》
https://doi.org/10.1002/jeab.856

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