犬の脳機能ネットワークのマップが明らかになった
犬が何かを考えたり、刺激に反応したりする時には犬の脳内で活動が起こっています。犬の脳活動をより深く理解するために、脳神経の走行などを観察できるMRI(磁気共鳴画像)を使った調査研究も数多く発表されています。
犬の医療検査のためにMRIを使用する場合は麻酔がかけられますが、脳の働きを正しく知るために、麻酔なしでMRI装置に入るためのトレーニングも開発されています。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学科では、2006年から犬のMRI測定のためのトレーニング開発に取り組んできました。そしてこの度、MRI測定の結果から犬の脳機能ネットワークのマップが紹介されました。
拘束具も鎮静剤も使わずに犬の安静時MRIを記録
この研究には33頭の家庭犬が参加しました。全ての犬が事前のトレーニングによって、麻酔や鎮静剤なしでMRI装置の中で安静に伏せていることができます。トレーニングは主に「ライバルトレーニング」と呼ばれる方法で行われました。
過去の犬のMRI調査では、特定の音を聞かせたり画像を見せるという刺激を脳が処理する際に、どの部位が活性化するかを調査してきました。しかし今回の調査では、犬たちはMRI装置の中でただじっとしているだけの安静時MRIが記録されました。
MRIのスキャン中、犬たちは防音対策のイヤーマフを装着し、目を開けたままでハンドラーが見えるようにしつつ、ハンドラーと犬のアイコンタクトは避けて伏せの姿勢を取りました。
犬の体は一切拘束されておらず、犬が嫌になった場合にはいつでも立ち去ることができる状態で行われました。
犬の脳機能ネットワークから哺乳類の脳の進化が見える
犬に音や画像などの刺激を与えて脳の活動を調査する場合、発せられた脳の活動信号を解剖学的な部位に重ね合わせ、脳のどの部位が刺激の影響を受けているのかを調べます。
この調査では刺激なしの安静時MRIから、どの脳領域とどの領域が機能的に関連しているのか、どの領域が最も緊密につながっているのかという、脳機能ネットワークの地図が示されました。
脳の前頭葉外側のネットワークは問題解決、作業切り替え、注意、実行などを制御しています。この調査によると、このネットワークは人間に比べて犬では役割が小さいことがわかりました。
また人間では自律神経調節、行動選択、注意力、報酬予測、共感や情動といった認知機能については、帯状皮質がその役割を担っています。犬の帯状皮質は、大脳全体の体積と比較すると人間よりも割合的に大きく、問題解決などの中心的な役割を担っていることがわかりました。
犬の帯状皮質のどの部分が、具体的にどの役割を持っているのかはまだ明らかになっていません。しかしこの調査結果は、人間の脳の進化の過程で、帯状皮質の役割が前頭葉外側のネットワークに一部引き継がれたことを示しています。
また犬の安静時MRIの脳機能ネットワーク地図によって、脳領域間のコミュニケーションがうまく行かなくなり、機能不全になってしまった状態(加齢による認知機能低下、不安や恐怖、精神疾患など)の解明にも役立つと考えられます。
まとめ
犬の安静時の脳をMRIでスキャンした調査結果から、脳機能ネットワークのマッピング行われ、哺乳類の脳の進化についての知見や脳の疾患の分析に役立つという報告をご紹介しました。
犬の脳の研究は今後も続けられ、さらに深い知見が得られることが期待されます。また新しい報告が届くのを楽しみに待ちたいと思います。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s00429-023-02625-y