数々の問題が知られているのに、なぜ短頭種の人気が高い?
フレンチブルドッグやパグなど、短頭種の犬が健康上の問題を数多く抱えていることは、獣医師や動物保護団体を中心とした啓蒙活動によって、かなり広く知られるようになって来ました。
しかし短頭種の犬の福祉の低さ、多くの健康上の問題、高い医療費、短い平均寿命、介護負担の大きさなどのデメリットにも関わらず、これらの犬種の人気は衰えるところを知りません。
そしてその人気の高さから質の低い繁殖業者が後を絶たず、短頭種の福祉をさらに低下させるという悪循環を作り出しています。
このたびハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学研究者が、短頭種犬の福祉の危機を解決するためには、短頭種に惹かれる人々の特徴や心理を知る必要があるとして、短頭種に関する理解や愛着についての調査を行いました。
どのような人がどのような理由で、短頭種に深い愛着を抱いているのかといったことから、見えてきたことをご紹介していきます。
短頭種に惹かれる人を知るためのアンケート調査
エトヴェシュ・ロラーンド大学では動物行動学の研究のひとつとして、家庭犬の認知や行動を調査するための、ファミリードッグプロジェクトという長期プロジェクトを実施しています。
また短頭種が特に好きな人のサンプル数を増やすために、フレンチブルドッグ、イングリッシュブルドッグ、キャバリアキングチャールズスパニエルなど、いくつかの短頭種の専門グループのFBページでも参加者を募集し、最終的に1,156人がオンラインアンケート調査に参加しました。
アンケートの質問内容は、回答者の属性、短頭種犬に対する好み、短頭種犬の健康問題に対する知識(クイズ形式)、自覚している自分の性格、犬に対する感情移入、犬の写真評価です。
回答者の属性は、年齢、性別、子供の有無、居住地、最終教育レベルでした。質問内容のうち最後の犬の写真評価とは、いくつかの犬種の犬の写真がそれぞれ2枚示され、1枚はまっすぐこちらを見てアイコンタクトをする様子、もう1枚は視線を外したもので、どちらが好きかが質問されました。
研究者は、短頭種を好む人は短頭種の健康問題についての知識が低く、短頭種の犬が人間とアイコンタクトを取る傾向を好む(=アイコンタクトの写真を高く評価する)という仮説を立てました。
アンケートの回答分析からわかった意外な結果
回答を集計分析した結果は興味深いものでした。まずアイコンタクトの好みは、予想に反して短頭種への好みとは関連していませんでした。また、回答者の属性によって短頭種の犬に対する好みについて特徴がありました。
若年層、女性、子どものいる人は、中高齢層、男性、子どものいない人に比べて、短頭種の犬に対して肯定的(=好き)な態度を示す傾向がありました。
これは短頭種の犬の丸くて大きい頭、大きな目と耳、低い鼻などの特徴が、人間の赤ちゃんの特徴と共通しており、「かわいい!」という感受性の高まりを起こすためではないかと推測されます。
教育レベルや犬に関する専門知識が高い人ほど、短頭種に対して否定的な態度を示す傾向がありました。これは過去の研究で、猫やウサギでのケースでも教育レベルや、専門知識の高さが人為的な選択による姿形に否定的であることと共通しており、予想した通りでした。
しかし短頭種の犬の健康問題に関する知識では、予想に反する意外な結果が示されました。短頭種に好意的な回答者は、その他の回答者に比べて短頭種の健康上の問題(呼吸困難、難産、歯並びの異常など)をより認識していることがわかりました。
一方で過去に行われた複数の研究から、短頭種の犬の飼い主は短頭種特有の健康問題を「犬種の特徴」と捉えたり、自分の犬は健康であると評価する傾向が強いこともわかっています。
研究者は今回の調査結果と併せて、短頭種の犬の熱狂的なファンは健康問題を認識してはいるが、これらの犬が経験する苦しみの程度を十分に理解していない可能性があると述べています。
健康問題への認識とはまた別に、犬の介護は飼い主と犬の間の愛着をより高める可能性があります。そこに短頭種特有の赤ちゃんのような身体的特徴が相まって、介護行動から来る愛着をさらに刺激することも考えられます。
全体として短頭種の健康上の問題は、短頭種の犬の購入をとどまらせるものではなく、反対に健康上の問題が犬の魅力的な特徴として捉えられている可能性が考えられます。
飼い主は短頭種の犬を、救いの手を差し伸べるべき無力な生き物と考え、この犬を守るというかけがえのない役割を担っていると感じている可能性が指摘されています。
まとめ
短頭種の犬に対する好みや知識を知るためのアンケート調査から、短頭種を強く好む人は犬種の健康問題についてもよく認識していたことがわかったという結果をご紹介しました。
研究者は「かつては純血種の犬の遺伝性疾患の蔓延を減らすためには、一般の人々や購入者に犬の健康問題について教育することが推奨されていたが、このアプローチは短頭種の犬の人気低下や、福祉の改善にはつながっていないようです」と結論づけています。
しかし、決して一般の人々や購入者への教育が無駄だというわけではありません。短頭種の健康問題の教育キャンペーンにおいては、「短頭種の健康問題は”普通”のことではなく苦痛を伴う」「短頭種全体の健康状態を改善するためには、飼い主が消費者として重要な役割を果たす」という2つのことを強調する必要があるとしています。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2023.105948