家畜化された動物の脳は小さくなるが、犬の場合は?
家畜化された動物は、元の野生種よりも脳のサイズが小さくなることが知られています。その理由は、家畜化された動物の生活は祖先である野生動物よりも単純であるためと考えられます。
人間に飼育されている安全な環境では、捕食されないよう用心したり、食べ物を得るために狩りをする必要がありません。そのためエネルギーコストのかかる大きな脳を維持する必要がなく、その分のエネルギーを他の目的に向けてきたと考えられています。
犬は家畜化された動物の中で最も古く、家畜化の後も人為的な選択によって数多くの表現型のバリエーションが生み出されて来ました。しかし、犬の家畜化後の脳の変化についてはほとんど知られていません。
この度、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学とハンガリー生態学/植物学研究所、スウェーデンのストックホルム大学動物学の研究チームにより、幅広い犬種の脳の大きさを比較した調査結果が発表されました。
159犬種の脳の体積データを収集
犬の脳の大きさ(体積)は、エトヴェシュ・ロラーンド大学の細胞発生生物学の研究者が収集した犬の頭蓋骨の高解像度CTスキャンに基づいて推計されました。
また同大学が運営している、犬のバイオバンクに保存された犬の脳を使って推計結果を検証しました。
調査結果によると、オオカミの平均脳体積は131立方センチメートルで、平均体重は31kgでした。同程度の体重の犬の場合は、脳の体積はその4分の3程度の100立方センチメートルでした。
他の家畜動物同様に、犬の脳のサイズもオオカミよりも小さくなっていることが確認されました。しかし犬種別に見た場合はどうだったのでしょうか?
研究者は犬種によって生活の社会的な複雑さに様々なレベルがあり、複雑な作業を行う場合には、より大きな脳の容量が必要になる可能性が高いため、犬種間で脳の大きさに違いが見られるかもしれないという仮説を立てました。
オオカミからの遺伝的な距離によって脳サイズが変わる
研究チームはAKCの犬種グループ分類を用いて、脳の大きさと犬種の機能との関連を調査しました。
犬種グループはハーディンググループ、ハウンドグループ、トイグループ、ノンスポーティンググループ、スポーツグループ、テリアグループ、ワーキンググループの7つです。犬種グループの他には平均寿命別、1度の出産時の子犬の平均数でも脳の体積が比較されました。
予想に反して、犬種本来の役割、平均寿命や子犬の出産数は脳の大きさとは無関係であることがわかりました。しかし研究者を驚かせたのは、オオカミから遺伝的に遠い犬種ほど、相対的に脳のサイズが大きくなっていたことでした。
この結果は、近代的な犬種の繁殖は古代犬種と比較して脳サイズの増加を伴っていることを示しています。犬種の役割や生理的な特徴は脳サイズの増加を説明できなかったので、その理由は現時点では推測するしかありません。
犬種を作って来た行動的特徴の選択は、犬全体の脳のサイズを変えるほど強くはなかったと考えられます。
一方で、オオカミから遺伝的に遠い近代的な犬種は、より複雑な社会環境、都市化、より多くのルールへの適応が脳のサイズに変化を引き起こしたのではないかと考えられます。
まとめ
159犬種の脳の体積の調査から、犬は家畜化によってオオカミよりも脳のサイズが小さくなったが、オオカミから遺伝的に遠い近代犬種ほど相対的に脳のサイズが大きくなっているという結果をご紹介しました。
近代的犬種の愛玩犬は、古代犬種のソリ犬などよりも体のサイズに比較した相対的な脳のサイズが大きいというのは興味深い結果ですね。人間の社会で人間と生活するというのは犬にとってそれだけ複雑なタスクだということがわかります。
《参考URL》
https://doi.org/10.1093/evolut/qpad063