犬に咬まれる被害者は子どもが多い
犬の咬傷事故の被害者の多くは子どもです。中でも6歳未満の幼児の割合が高く、被害の程度も深刻なものになりがちです。そのため犬による子どもへの咬傷事故の予防について、数多くの小児科医が調査研究を行なっています。
2023年5月にアメリカのワシントンD.C.で開催された小児科学会において発表された予備的研究(本調査に先立って行われる研究。まだ査読付き論文としては発表されていない。)もそのひとつです。
この研究を行なったデラウェア州の小児科病院ネムアーズ・チルドレンズ・ヘルスの研究チームは、医療データの記録から犬による子どもの咬傷事故の内容を調査分析しました。
過去10年の傷害データから子どもの交渉事故を分析
研究のためのデータは、全米電子傷害サーベイランスシステム(米国における傷害の発生状況を継続的に調査し把握するためのシステム)を用いて、2010年から2020年までの10年分の記録が集められました。
システムに登録された患者1億5200万人のうち4600万人が子どもで、そのうち0.08%に当たる約36,800人が、犬による咬傷で救急外来を受診していました。データの分析から、これらの咬傷は春と夏に大幅に増加していたことが明らかになりました。
寒い冬の後の春先には、公園などで犬と子どもが接触する機会が増えることや、夏休み中の子どもが家庭や近所の犬と接触する機会が増えることが、事故増加の一因と考えられます。
小学生やティーンエイジャーの場合、逃げる時に脚を咬まれたり、防御した手や腕を咬まれたりと四肢への怪我が多くなります。
一方6歳未満の幼児は顔の位置が犬の顔に近いため、顔や頭部への怪我が多くなります。この場合、体の小ささも相まって大きなダメージになることが多いのです。
研究者は、公衆衛生機関や医療従事者そして子どもの保護者たちに、犬に咬まれないようにするために必要な情報を提供するべきだと述べています。
子どもが犬に咬まれないために
犬が子どもを咬んでしまう事故は、見知らぬ犬や野良犬だけでなく家庭で飼っている犬によっても数多く起こっています。ネムアーズ・チルドレンズ・ヘルスでは、子どもが犬に咬まれないための予防策の保護者向け情報として、次のようなことを情報発信しています。
まず、たとえ家庭で一緒に暮らしている犬であっても、10歳未満の子どもを監督なしに犬と子どもだけで過ごさせないことが重要です。その犬がどんなにいい子で、子どもがどんなに犬に慣れていてもです。
子どもに次のような「愛犬にしてはいけないこと」をしっかりと教えることも大切です。
- ギュッと強く抱きしめる
- 犬に飛び乗る
- トリーツやおもちゃで犬を焦らす
- 耳や尻尾を引っ張る
- 犬が食べている時や寝ている時に邪魔をする
- おもちゃやトリーツを取り上げる
- 綱引きをする
- 犬を取り囲んだりコーナーに追い込む
家庭で飼っているのではない見知らぬ犬の場合は上記のようなルールに加えて、さらに大切なルールがあると教えます。
- よその犬に勝手に近づかない
- 近づいたり撫でたりしたい時には飼い主さんに確認する
- 犬の顔をじっと見ない
- 犬の側で犬の方から近づくのを待つ
- 犬が嫌がっていればあきらめる
- 撫でる時は顔、尻尾、頭は避ける
- 走ったり、大声を出さない
保護者である大人は犬が怖がっていないか、全身が緊張して強張っていないかを注意して見る必要があります。
犬を飼っていない人には犬のボディランゲージはわかりづらいものですが、リラックスして楽しそうにしている犬以外には近寄らないと覚えておきましょう。
犬の飼い主としては、犬がストレスを感じそうな状況になるのを避ける、時にははっきりとNOということも大切です。
まとめ
アメリカの小児科病院の研究チームが、犬による子どもの咬傷事故は春と夏に特に多いと発表した研究結果をご紹介しました。
ほとんどの犬は理由もなく人間を咬むことはありません。つまり人間の側で犬が咬むトリガーを引かないことが、咬傷事故防止のために重要です。保護者の方々はお子さんを守るために、飼い主の方々は愛犬を守るために、上記のような注意点を改めて確認なさってみてください。
《参考URL》
https://www.upi.com/Health_News/2023/05/04/dog-bites-kids/5161683132890/