狩猟動物の肉と銃弾由来の鉛の危険性
狩猟によって得られる野鳥や動物の肉は、ジビエ(フランス語)やゲームミート(英語)と呼ばれ好まれています。
近年では人間の食用としてだけでなく、犬や猫のためのペットフードとしてゲームミートの生肉や、ゲームミートを使ったドライフードやウェットフードが販売されています。
ゲームミートは家畜や家禽の肉と違って、抗生物質などの心配がない安心な食材として捉えられています。
しかし狩猟に使用される銃弾の多くは鉛製で、鉛は人や動物にとって有毒な金属です。人間用の食肉として販売されている野生のキジ肉の鉛濃度が、鶏肉など他の肉類で許容されている濃度よりも、高い例があることが調査によって分かっています。
一方、今のところ狩猟動物の肉を含むペットフードについて、ペットが銃弾由来の鉛を摂取するリスクに関する情報はほとんどありません。
この度イギリスのケンブリッジ大学動物学の研究者、ハイランズ・アンド・アイランズ大学環境研究所、獣医学の毒物の専門家のチームによって、野生のキジ肉を使ったドッグフードの鉛濃度を分析した結果が発表されました。
犬用製品から最大残留基準値を超える鉛が検出
研究チームは、以下のようなキジ肉を使った犬用製品5種(生肉3種、乾燥トリーツ1種、ウェットフード1種)と比較のために、チキンを使った犬用製品3種(生肉、乾燥トリーツ、ウェットフード各1種)をイギリス国内で購入し分析対象としました。
- 生のキジ肉ベースの犬用総合栄養食、30袋(メーカーA)
- 生の犬用キジ肉、30袋(メーカーB)
- 生の犬用キジ肉、30袋(メーカーC)
- 生のチキンベースの犬用総合栄養食、12袋
- エアドライのキジとウズラ肉のトリーツ、30袋
- エアドライのチキンスティック、11袋
- キジとガチョウベースのウェットフード(総合栄養食)、30缶
- チキンベースのウェットフード(総合栄養食)、12パウチ
生のキジ肉を含む製品3種は、全ての説明書に銃弾が含まれる可能性があると記載されていましたが、銃弾の種類については書かれていませんでした。
キジ生肉の製品3種90サンプルを分析したところ、77%のサンプルから法律で動物飼料に許容される最大残留基準値を大きく超える鉛濃度が検出されました。3製品の平均鉛濃度は、最大残留基準値の約245倍、135倍、49倍でした。
エアドライ製法のキジ肉とウズラのスティックでも、最大残留基準値を超える鉛が確認されましたが、平均濃度は生の製品よりははるかに低いものでした。キジ肉とガチョウをベースにしたウェットフードからは、最大残留基準値を超えるレベルの鉛は検出されませんでした。
野生のキジ肉を使った犬用製品に含まれる鉛の平均濃度は、人間用に販売されているキジ肉の19〜37倍でした。
生肉製品で特に鉛濃度が高いのは、これらの製品がミンチ状で販売されており、ミンチに加工する際に鉛弾も細かい断片として砕かれてしまうためだと考えられます。人間用の食肉では1羽まるごと販売されることが多いため、犬用製品よりも鉛濃度が低いと考えられます。
ゲームミートの鉛濃度の今後の対策
鉛の毒は人や動物の身体システムに悪影響を及ぼし、中でも神経系への影響が大きいものです。人間用の食肉の鉛濃度の高さは言うまでもなく大きな問題ですが、人間の場合は毎日ゲームミートだけを食べるという人はほとんどいません。
それに対し、ペットフードでは毎日もしくは高い頻度で食べる可能性が高く、健康を害するリスクは人間よりも高くなります。また、子犬が高濃度の鉛を摂取した場合より多く吸収する傾向があり、発達中の神経系が鉛の影響を大きく受ける危険性が高いのです。
イギリスおよびEUは、鉛弾の使用を制限することは人々や動物の健康に重要であるとして、法による規制が検討されています。この分析結果も、鉛弾規制の決定プロセスにおいて考慮されるべきだと研究者は述べています。
野鳥や野生動物の肉を使ったペットフードを扱っているメーカーでは「狩猟に鉛弾は使っていません」と明記しているところもあり、購入の際に確認するよう呼びかけられています。
日本でも北海道では既に、鉛弾の使用および猟場での所持は禁止されています。本州においても鉛弾使用禁止区域が設定されています。
これらは鉛弾で撃たれた動物の肉を食べた猛禽類が、鉛中毒で命を落としてしまうことがあるためです。全国的には2025年度から鉛弾の使用の規制が始まることが決まっています。
ジビエやゲームミートと呼ばれる肉が全て危険だというわけではありませんが、「ジビエだから安全」というのも間違いだといえます。
まとめ
イギリスでの調査で、市販の野生キジ肉を使ったドッグフードを分析したところ、77%のサンプルから最大残留基準値を超える量の鉛が検出されたという結果をご紹介しました。
外国の話ですが、日本でも起こり得る事例です。大切な愛犬に与えるものはイメージだけでなくしっかりと安全を確認できるよう、知識を持っておくことが重要だと改めて感じさせられます。
《参考URL》
https://dx.doi.org/10.1007/s13280-023-01856-x