犬やディンゴは過剰模倣をするのだろうか?
犬も人間の子どもも、他の誰かが何かをしたり問題を解決したりするのを見て真似をすることで多くの行動を学んでいきます。
しかし4歳くらいまでの子どもは大人の真似をする時に、本来の目的には必要のない動きまで真似をすることがあります。必要であるかどうかに関わらず、他者の行動を全てコピーしてしまうという傾向は、発達科学や発達心理学では「過剰模倣」と呼ばれます。
アメリカのイェール大学犬認知センターの心理学の研究チームは、家庭犬やディンゴも人間の子どもと同じように、過剰模倣をする傾向があるかどうかを実験によって調査しました。
人間の子どもの過剰模倣の実験を応用
この実験は以前に行われた人間の子どもの過剰模倣の実験が応用されました。この研究は3〜4歳の子どもたちを対象にしたもので、子どもにとって魅力的な賞品が入ったパズルボックスが使われました。
ボックスにはレバーが付いており、実演者はまずレバーを動かして次にボックスの蓋を持ち上げて賞品を取り出す動きを見せました。
しかし、子どもたちは「早く早く!」と急かされるような状況でも、必ずレバーを動かしてから蓋を持ち上げるという2つのステップを繰り返しました。
犬認知センターで行われた研究では、一般募集された40頭の家庭犬と、オーストラリアのビクトリア州にあるディンゴ・ディスカバリーセンターで飼育されている13頭の純血のディンゴが対象となりました。
ディンゴが実験対象になったのは、家畜化されていないイヌ科動物の行動と犬の行動を比較するためです。
人間の子どもの実験と同じように、意味のないレバーが付いたパズルボックスが用意され、中にはトリーツが入れられました。実演者はレバーを動かし、次に蓋を持ち上げると、トリーツにありつけることを犬とディンゴに見せた後にパズルボックスを開ける機会を与えました。
犬やディンゴは効率的に学習する
犬とディンゴの行動は人間の子どもとは対照的なものでした。何度かパズルボックスを開ける経験をした彼らは、レバーを動かすという不要なステップを省くようになりました。家畜化された家庭犬たちも、家畜化されていないディンゴたちも同じ行動を示したのです。
目的を達成するという点において、犬やディンゴは人間の幼児よりも効率的に学習することが明らかになりました。これはまた「過剰模倣」は人間が学習する際の傾向を示しており、人間のユニークな面を浮き彫りにしたとも言えます。
過剰模倣は一見無駄な行動のように見えますが、人間の社会においては一見無駄に見えるが、社会が潤滑に動くために大切な行動がたくさんあります。
例えば、すれ違った近所の人に会釈をする、後から来た人のためにエレベーターのボタンを押してあげる、などです。幼児の過剰模倣の傾向には、大人が一見無意味に見えるが、実は大切な行動をしているのを真似するという高度な社会性が含まれています。
まとめ
人間の幼児と違って、犬やディンゴは目的を達成するための行動を学習する時に、人間が見せた無駄な動きは自主的に省略するという実験の結果をご紹介しました。
無意味な模倣はしない犬やディンゴもすごいし、幼児の一見無意味に見える模倣の奥に潜んでいる人間の社会性もすごいですね。
人間の学習は効率だけでなく、無駄に見えるが大切なことを真似するためであると考えると「人間性」とは何かということが見えてくるような気がします。
《参考URL》
https://doglab.yale.edu/sites/default/files/johnston_holden_santos_2016.pdf