低コストで環境に優しい抗原検査の方法とは?
COVID-19への対策は世界各地で緩和されつつありますが、この感染症そのものが無くなったわけではありません。引き続き様々な対応策を立てている国や自治体も多く、アメリカのカリフォルニア州もそのひとつです。
カリフォルニア州公衆衛生局は、州全体の学校ベースのCOVID-19抗原検査プログラムに資金を提供しています。しかし従来の抗原検査プログラムには、人員、検査資源、サンプル収集が必要であり、大量の医療廃棄物が発生するというデメリットもあります。
そこで当局は、迅速で身体への負担が少なく低コストで環境に配慮したCOVID-19のスクリーニング戦略として、医療探知犬プログラムをスタートしました。
医療探知犬によるCOVID-19スクリーニングを試験的に開始
カリフォルニア州公衆衛生局はNPO団体のアーリー・アラート・ケーナインと提携し、2頭の医療探知犬をトレーニングしました。アーリー・アラート・ケーナインは、糖尿病患者の低血糖を知らせる医療アラート犬のトレーニングを行なっている団体です。
感度とは陽性(この場合は揮発性有機化合物があること)を正しく識別する割合のことで、特異度とは陰性(この場合は揮発性有機化合物が含まれないこと)を正しく識別する割合のことを指します。
トレーニングを完了した2頭によるスクリーニングは、元々従来の抗原検査が予定されていた学校で試験的に開始されました。
スクリーニング参加者は約2メートルの距離を取って並び、ハンドラーに先導された犬が足首と足の匂いを嗅いで行きます。
犬がCOVID-19特有の揮発性有機化合物を認識した場合(陽性の可能性)は、犬がその場で座ります。その後、参加者は従来の抗原検査を受けて探知犬によるスクリーニングの結果と比較されました。
犬が陽性だと知らせたが抗原検査の結果は陰性だった場合は「偽陽性」、犬が陽性だと知らせなかったが抗原検査の結果は陽性だった場合は「偽陰性」としました。
診断精度は90.0%、ただし今後の課題も
学校での試験的なスクリーニングは小中高の27校で、2022年4月1日から5月25日の間に50回にわたって実施されました。犬たちがスクリーニングした参加者は合計1,558人で、そのうち68%が複数回のスクリーニングを受けました。
これらのスクリーニングよって、医療探知犬たちは85の陽性と3,411の陰性を正確に知らせ、診断精度は90.0%でした。しかし犬が知らせたシグナルの383件が不正確で、18件の陽性を見逃していたため、感度は83%、特異度は90%となりました。
感度と特異度が実験室での結果よりも低下したことについて、スクリーニング現場での子どもたちによる騒音や、風や他の物の匂いといった環境要因が加わったことが考えられます。
学生からサンプルを収集することも検討されましたが、その場合コストと時間効率が犠牲になってしまいます。
州公衆衛生局の研究者の目標は、従来の抗原検査は犬によるスクリーニング結果が陽性だった人にのみ実施することで、抗原検査の実施回数を約85%削減することだとしています。
今回の試験的開始から、普及には改良が必要であるが、医療探知犬が効率的にCOVID-19または他の感染症のスクリーニングが可能であることが裏付けられたとしています。
まとめ
カリフォルニア州公衆衛生局が、学校でのCOVID-19のスクリーニングに試験的に医療探知犬を導入したことをご紹介しました。
スクリーニングの物理的な条件を改善することで、感度や特異度も改善されることが期待されますし、医療資源の負担軽減など医療探知犬の可能性が広がる試験結果だったと言えそうです。
《参考URL》
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2804205