高齢犬の睡眠と認知の関連を調査
高齢犬の認知症(正式にはイヌ認知機能障害症候群)は、人間のアルツハイマー病との共通点が多いため、犬と人間の両方の認知症治療を目指す研究が数多く行われています。
両者の共通点のひとつとして、認知症の犬も認知症の人と同じような睡眠の乱れに悩まされるということがあります。
このたびアメリカのノースカロライナ州立大学獣医学部、アルゼンチンのリトラル国立大学応用数学研究所とエントレ・リオス自治大学、ハンガリーの自然科学研究センター認知神経科学研究所の研究チームによって、高齢犬の睡眠周期や脳波の加齢変化と、認知パフォーマンスとの関連を調査した結果が発表されました。
睡眠中の高齢犬の脳波を測定
調査のための睡眠テストに参加したのは、ノースカロライナ州立大学獣医学部の研究に参加している28頭の高齢犬でした。睡眠試験の犬たちは健康診断と認知機能検査を受けました。
認知機能の検査は、飼い主が記入した『犬認知症スケール質問票(犬の認知機能の低下の程度を調べるための質問票)』と、犬が行う認知機能テストの組み合わせによって評価されました。
睡眠テストは睡眠時ポリグラフ検査の方法で行われました。犬には鎮静剤を使用せず、粘着ゲルによって頭部に電極を固定して睡眠時間中の脳波や眼球運動が記録されました。実際のテストの前には、犬が環境と電極装着に慣れるための模擬試行も行われました。
上記のような方法での、午後の2時間の昼寝中のポリグラフ検査の結果から、覚醒、眠気、ノンレム睡眠、レム睡眠に費やした時間の割合と2つの睡眠状態への移行時間が算出されました。
認知症の犬は必要な睡眠が取れず、睡眠中も脳が覚醒していた
睡眠テストの結果は、認知症質問票での認知症スコアが高く、認知機能テストの成績が低い犬ほどノンレム睡眠とレム睡眠の時間が短くなっていました。ノンレムとレムはREM=Rapid Eye Movementの略で、睡眠中に眼球が早い動きをすることを指します。
眼球が動かないノンレム睡眠は眠りが深い状態で、この状態では夢を見ません。ノンレム睡眠中は、アルツハイマー病などに関与するβアミロイドタンパクを含む毒素を脳が消去します。
眠っていながらも眼球が動いているレム睡眠中には夢を見ることが起こり、この状態は記憶の定着に重要な役割を果たします。
つまり認知症の犬では、認知症に関与する毒素を消去する睡眠時間と、記憶の定着に必要な睡眠時間の両方が短くなっていたということです。これに加えて、脳波の状態を見ると睡眠中であっても脳の活動が覚醒状態に近いこともわかりました。
ノンレム睡眠とレム睡眠の時間が長い犬は問題解決能力が高く、覚醒時間が長い犬は問題解決能力が低いこともわかりました。
睡眠障害は認知症の症状のひとつだということは知られていますが、睡眠時ポリグラフ検査によって、睡眠と認知機能の相関を評価した研究はこれが初めてのものです。研究者はこの研究が、認知機能低下の兆候を見せる高齢犬の早期診断と介入につながることを期待していると述べています。
まとめ
高齢犬に認知症評価と睡眠時ポリグラフ検査を実施したところ、ノンレム睡眠とレム睡眠の時間が短く覚醒時間が長い犬ほど、認知機能が低下していたことがわかったという研究結果をご紹介しました。
犬の認知症の有用な指標が明らかになったことで治療方法の開発に役立つ可能性があり、さらに人間のアルツハイマー病治療にも役立つことが考えられます。今後のさらなる研究結果が楽しみです。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2023.1151266