映画にもなったソリ犬バルトのゲノム解析【研究結果】

映画にもなったソリ犬バルトのゲノム解析【研究結果】

約100年前の有名なソリ犬バルトのゲノム解析が行われ、当時のソリ犬の強さの理由が明らかになったという研究結果をご紹介します。

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実在の英雄犬バルト

バルトの銅像

1995年にアメリカで製作され、日本では翌1996年に公開された『バルト』というアニメ映画があります。バルトは主人公である犬の名前です。

『バルト』の舞台は1925年アラスカのノームという小さい町です。この町で感染症のジフテリアが流行し、治療薬である血清が届かなければ多くの子どもたちの命が失われるという危機に見舞われました。

猛吹雪で交通手段が断たれた中、バルトと仲間の犬たちが曳く犬橇で血清が届けられ多くの人々が救われたという冒険物語です。

この映画は実話を基にしており、バルトは実在の犬です。バルトのチームが単独で活躍した映画のストーリーと違って、実際には血清を届けるため、約1,000kmの距離を多くのソリ犬チームがリレー方式で走りました。全行程には150頭以上の犬が参加し、バルトは最後の85kmを先導した犬でした。

バルトの名は全米に知られることになり、ニューヨークのセントラルパークにはバルトの銅像が建てられてました。(上の画像) 1933年にバルトが亡くなった時には剥製にしてその姿が保存され、遺骨はクリーブランド自然史博物館に展示されています。

このたび、この剥製からバルトの皮膚サンプルを採取しゲノム解析が行われ、当時のソリ犬たちの特徴などが明らかになりました。

バルトの剥製から取ったサンプルでゲノム解析

ソリ用ハーネスをつけたグリーンランドドッグ

ソリ犬バルトのゲノム解析は『ズーノミア・プロジェクト』という大規模プロジェクトの一部です。このプロジェクトは2015年に始まり、現在では50の研究機関から150人以上の研究者が参加し、多様な哺乳類240種のゲノムが研究対象として取り上げられてきました。

バルトのゲノム解析も240種のうちのひとつで、カリフォルニア大学サンタクルズ校を中心とした研究チームによって実施されました。バルトのゲノム配列は、劣化したDNAの塩基配列を解読する技術を使って調査されました。

再構築されたバルトのゲノムは、135犬種680頭の現代の犬のものと比較されました。比較対象にはシベリアンハスキーや、グリーンランドでソリ犬として働いているグリーンランドドッグのゲノムも含まれました。

バルトの祖先は一部が現代のシベリアンハスキーと共通しており、シベリアンハスキーとグリーンランドドッグの両方よりも遺伝的に多様であったことがわかりました。バルトはオオカミの血を引くという言い伝えがありましたが、ゲノム解析からはその証拠は見つかりませんでした。

バルトの外見は、犬の身体的特徴を形成することが知られているゲノム変異に基づいて推測された結果、現代のソリ犬の犬種(アラスカンマラミュート、シベリアンハスキー、グリーンランドドッグ)にはない毛並み、体格はこれらの犬種よりもやや小さいことがわかりました。

デンプン消化能力はオオカミやグリーンランドドッグよりも高く、現代の他の犬種よりは低いこともわかりました。他には、骨の発達、関節形成、皮膚の厚さ、協調性に関連する遺伝子に変異があり、100年前のアラスカという厳しい気候の中、ソリを曳いて長距離移動するという環境に適応していたことが確認されました。

バルトやその仲間のソリ犬たちは、現代の犬種よりも近親交配が少なく、遺伝的に健康であったと考えられます。

多様な種のゲノムを比較することの意味

DNAのモデル

バルトのゲノムは『ズーノミア・プロジェクト』の取り組みの一環として、他の240種の哺乳類のゲノムとも比較されました。多様な種を比較することで、どのDNA断片が全ての種に共通しており、数百万年の進化の過程で変化していないかが判明しました。

つまりこれらのDNA断片は安定性が高く、動物の重要な機能に関連しており、そこに変異が生じると危険であることが示されました。

240種の哺乳類にはヒトも含まれており、ヒトのゲノムと他の哺乳類との違いを明確に理解することで、ヒトに特有の病気につながるDNAの変異や欠失を知り、それが病気をより深く理解し新しい治療方法を開発することにもつながります。

まとめ

犬ぞりを曳く犬たち

約100年前にアラスカでソリを曳いていた犬のゲノム解析をしたところ、厳しい環境を生き延びるために有利なDNA変異を持っていた可能性があることがわかったという研究結果をご紹介しました。

バルトはシベリアンハスキーと共通する祖先を持っているとは言え、現在のシベリアンハスキーが外見的な形質を選択して繁殖されているため、バルトとシベリアンハスキーはかなり違っているようです。

100年という短い期間でこのような違いが生まれるのは非常に興味深く、人間による犬の繁殖の責任の重さを改めて感じさせられます。

《参考URL》
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn5887

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