犬は犬のガンを匂いで識別できるか?
犬はその素晴らしい嗅覚を使って私たちの生活をサポートしてくれています。医療探知犬もその一例で、ガン、糖尿病、各種感染症などさまざまな病気を匂いで嗅ぎ分けて、医療検査の簡便化に貢献しています。
人間の他にも探知犬は家畜の病気の嗅ぎ分けなどにも活躍しています。では同族である犬の病気、中でもガンについてはどうでしょうか。残念ながら犬のガンを探知する犬の研究は非常に少なく、今のところ「犬は犬のガンを匂いで識別できる」という明確な結論に至っているものはないそうです。
このたび、アメリカのウィスコンシン大学マディソン校獣医学部とアラバマ大学公衆衛生学部の研究チームによって、ガンの犬の唾液と健康な犬の唾液を犬が嗅覚で識別できるよう訓練できるかどうかを調査した結果が発表されました。
ガンの犬と健康な犬の唾液サンプルで識別トレーニング
調査のためのトレーニングとテストに使われた犬の唾液サンプルは、ウィスコンシン大学マディソン校獣医学部付属の動物病院で飼い主の同意を得て採取されました。サンプル採取されたのは、悪性腫瘍と診断された犬139頭と健康な犬161頭でした。
できるだけ違う種類の悪性腫瘍の犬が選ばれ、放射線療法や化学療法による治療が始まる前にサンプルが採られました。
調査に参加したのは6頭の家庭犬で(ビーグル4頭、ワイマラナー1頭、ミックス犬1頭)、6頭のうち5頭はノーズワークで2年以上のトレーニングと競技経験を持っていました。
調査のためのトレーニングは週1〜3回で6ヶ月に渡って専門施設で実施されました。トレーニングには上記の悪性腫瘍があると診断された犬の唾液と、健康な犬の唾液のサンプルが使用され、トレーニングで使われなかったサンプルは後の識別テストに使用されました。
高い精度でガンを識別した犬たち
トレーニングを受けた犬たちは、唾液サンプルが悪性腫瘍のある犬のものか、健康な犬のものかを識別するテストを受けました。
その結果は、平均感度90%、平均特異度98%という精度の高いものでした。「感度」とは陽性(病気がある、この場合はガン)を正しく検出する確率、「特異度」とは陰性(病気ではない)を正しく検出する確率のことです。
また嗅覚によるスクリーニング検査が陽性だったサンプルが、本当にガンである確率を示す陽性予測値は95%、同じく検査が陰性だったサンプルが、本当にガンでない確率を示す陰性予測値も95%という正確さを示しました。
この結果は、唾液サンプルによってガンのスクリーニングをするために犬を訓練することが可能であると証明するものです。
犬の医療検査は人間と違って全身麻酔が必要になったり、そうでなくても犬に負担となるものが少なくありません。唾液サンプルを他の犬が嗅ぐことでガンのスクリーニングができるようになれば、患者犬にとっても飼い主さんにとってもありがたいことです。
ガン探知犬によるスクリーニングは、犬のガン患者の生活の質と余命を改善する可能性にもつながります。
まとめ
6ヶ月のトレーニングを受けた犬たちが、ガンと診断された犬の唾液と健康な犬の唾液を高い精度で嗅ぎ分けることができたという調査結果をご紹介しました。
ガンの早期かつ非侵襲的(身体を傷つけない方法)な発見は、獣医腫瘍学と獣医学全般の目標であり、この研究はコンパニオンアニマルのガン検出という新しい分野への第一歩となると、研究者は述べています。
今後は、より多くの犬、さまざまなガン、対照としてガン以外の疾患がある場合、猫の患者など対象を拡げて研究を発展していくとのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.2460/javma.22.11.0486