ペットと食物アレルギーについての日本での研究
犬や猫といっしょに暮らすことがアレルギーやぜん息の発症低下と関連しているという研究は過去にも複数発表されています。
アメリカでの調査では、子ども全体の約6%が何らかの食物アレルギーを持っており、日本を含む他の国でも子どもの食物アレルギーの発生率は上昇を続けています。過去の研究では妊娠中や乳幼児期における、犬との接触と食物アレルギーの軽減に関連がある可能性が示されています。
この度、日本の福島県立医科大学の研究チームによって、このような先行研究をバックアップする報告が発表されました。
ペットの存在は食物アレルギーに関連しているか?という大規模調査
この研究では犬や猫の他にも、複数の種類のペット動物と多種類の食物アレルギーとの関連が調査されました。ペットの存在と子どものアレルギーの研究としては、これまでで最大の規模のものとなります。
調査のためのデータは、環境省が日本全国で実施している「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のための質問票から使用されました。
妊娠している女性への質問票への回答と、出産後の質問票への回答、医療記録などから、さまざまなペット動物への曝露と食物アレルギーのデータが得られた子ども66,215人について、食物アレルギーの発症リスクに対するペット動物の影響が調査分析されました。
ペット動物は、室内飼育の犬、屋外飼育の犬、猫、ハムスター、カメ、鳥が対象となり、子どもの食物アレルギーは3歳までの発症が対象となりました。
犬や猫と室内でいっしょに暮らすことのメリット
分析の結果、胎児期および乳児期に室内飼育の犬や猫がいっしょに暮らしていた子どもは、食物アレルギーの発症率が有意に低くなっていました。
ただし犬が屋外飼育の場合には、有意な違いは見られませんでした。また犬や猫が暮らしていたのが胎児期のみの場合も、有意な違いは見られませんでした。
室内飼育の犬と暮らす子どもたちは、卵、牛乳、ナッツのアレルギーが有意に少なく、猫と暮らす子どもたちは卵、小麦、大豆のアレルギーが有意に少なかったこともわかりました。
今回の調査では、ペットとの接触がなぜ食物アレルギーに影響を与えるのかという因果関係まではわかりませんが、研究者はいくつかの仮説を挙げています。
ひとつは、ペットへの曝露は子どもまたは親の腸内細菌叢や家庭内の細菌叢に影響し、アレルギーを抑制する細菌を増加させるのではないかというものです。
もうひとつは、ペットを飼うことで家庭内のエンドトキシン濃度が上昇し、免疫を増強することでアレルギーが起きにくい可能性があるというものです。
犬や猫と暮らすことが食物アレルギーの発症低下と関連していたという結果の一方で、カメや鳥の飼育と食物アレルギー発症には有意な関連は見られませんでした。またハムスターを飼育していた場合、ナッツアレルギーの発症率が有意に高くなっていました。
ハムスターについては、ハムスターが食べたナッツの微細な欠片が身体的接触やハウスダストを通じて、乳児に影響したのではないかと考えられるそうです。身体的接触とは、保護者がハムスターやハムスターのエサを触った手で乳児に接触することなどが例に挙げられています。
研究者は、ハムスターを飼育していても家族の手洗いやハムスターと乳児を近づけないことでアレルギー発症を抑えられる可能性を述べています。
まとめ
胎児期〜乳児期に犬や猫といっしょに暮らした子どもは、3歳までの食物アレルギーの発症率が有意に低かったという研究結果をご紹介しました。
「妊娠したから」「赤ちゃんが生まれたから」という理由で、犬や猫の飼育をやめる例は数多くあります。この研究結果は、妊娠中も出産後も犬や猫を飼い続けることが食物アレルギーのリスク低減に有効である可能性を示しており、飼育放棄を減少させる理由のひとつになるかもしれません。
この調査は質問票への回答がベースになっているため、今後は医療的な検査などを含むさらなる研究が必要だということです。また新たな報告が届くことが楽しみです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0282725