犬や猫は多剤耐性菌の潜在的な保菌者?
怪我や病気の際に細菌に対して強い効果を持つ抗生剤(抗菌剤)は、治療の決め手となるものです。しかし細菌が抗生剤に対する耐性を持つように進化すると、薬が効かなくなってしまうという事態が起こります。中でも注意が必要なのは、複数の種類の抗生剤に耐性を持つ多剤耐性菌です。
多剤耐性菌の感染経路はさまざまですが、コンパニオンアニマルである犬や猫が潜在的な保菌者であるという懸念されています。
2023年4月に開かれる欧州臨床微生物学・感染症学会において発表される予定の「コンパニオンアニマルと、人間の間で多剤耐性菌が感染する可能性」についての研究が特別早期リリースされました。
入院患者とペットから研究のためのサンプルを採取
この研究はドイツのシャリテ医科大学病院の研究者によるもので、2,891人の患者と彼らのコンパニオンアニマルを対象にしています。
2019年6月から2022年9月にかけて同病院に入院した患者2,891人と、その家庭で暮らしている犬や猫から鼻腔および直腸スワブが採取されました。参加者のうち犬や猫と暮らしている人は626人で、400頭のペットのサンプルが得られました。
参加者には最近の多剤耐性菌への感染の有無、抗生剤の使用、最近の入院、入院時の尿道や中心静脈カテーテルの有無、家庭内でのペットの数、ペットとの接触距離の近さ、ペットの健康状態などの情報についても質問されました。
遺伝子配列決定によってサンプルに含まれる細菌種と、薬剤耐性遺伝子の存在が確認され、人と犬猫の間での耐性菌の共有の可能性を確認するため、全ゲノム配列決定が行われました。
飼い主とペット間での感染はあり得るが主な原因ではない
研究に参加した患者のうち、多剤耐性菌に対して陽性だったのは871人(30%)陰性は2,020人(70%)でした。陽性の人のうち犬を飼っている人は11%、猫を飼っている人は9%でした。陰性の人のうち犬または猫を飼っている人は13%でした。
犬と猫から採取されたサンプルでは。多剤耐性菌に対して陽性だったのは犬30頭(15%)と猫9頭(5%)でした。
このうち4つのケースで、飼い主とペットが陽性を示した多剤耐性菌が同じ種で、同じ抗生剤耐性を示しました。これら一致したペアのうち、陽性を示した多剤耐性菌が遺伝的に同一だったのは、犬と飼い主の一例だけであったことが全ゲノム配列決定によって確認されました。
この調査では、多剤耐性菌がペットの犬や猫と人間の間で感染する可能性があることが示されました。幸いにも症例は少なかったことから、ペットが入院患者の多剤耐性菌感染の主な原因ではないことも示されました。
ただし保菌者は、数ヶ月にわたって細菌を排出する可能性があるので、乳児や高齢者を含め免疫力が低下している人がいる環境では注意が必要です。これは人間からペットに対しても同様で、幼齢や高齢の動物がいる家庭では人間からの感染について特に注意が必要です。
まとめ
病院の入院患者とそのペットを対象にした調査で、少数ではあるが人間とペットの間で多剤耐性菌の感染の可能性があると示された研究結果をご紹介しました。
この調査は観察研究であり、ペットの犬や猫と密接な接触が多剤耐性菌のコロニー形成を引き起こすことを証明するものではありません。また感染が動物から人間にだったのか、人間から動物にだったのかという方向性も分かりません。
感染予防の基本は、人間の手洗いや住環境の清掃、動物との過剰な接触を避けることです。大切な愛犬や愛猫、人間の家族の健康と安全のために心に留めておきたいですね。
《参考URL》
https://www.eurekalert.org/news-releases/982972
The European Congress of Clinical Microbiology & Infectious Diseases (ECCMID 2023, Copenhagen, 15-18 April)