犬とオオカミをトレーニングする時の発声の研究
犬のトレーニングに体罰などの嫌悪刺激を使うことの弊害はかなり知られるようになってきました。代わりにトリーツや遊びなどの報酬を使って「正の強化」を行うトレーニング方法の効果の高さも科学的な裏付けと共に広まっています。
オーストリアのウィーン獣医科大学ではウルフサイエンスセンターという研究施設を設け、飼育下のオオカミと犬の行動を比較する調査研究を数多く発表しています。それらの研究のひとつでは、犬「正の強化」を使ったトレーニング方法が犬にもオオカミにもリラックスを促すことが分かっています。
そしてこの度、ブラジルのポンティフィカル・カトリック大学、オーストリアのウィーン大学、ウィーン獣医科大学、メッサーリ研究所の研究チームによって、犬とオオカミをトレーニングする時の声や口調についての調査研究が行われ、その結果が発表されました。
トレーナーの声を、優しい、中立、厳しいに分類
調査のためのトレーニングに参加したのは9頭の犬と9頭のオオカミで、すべて1〜2歳の若い個体です。犬もオオカミもウルフサイエンスセンターで人間の手で育てられました。センター内では人間および他の成体の犬、またはオオカミとの社会化が行われています。
こうして犬135セッション、オオカミ135セッションの合計270のトレーニングセッションのビデオが撮影され、分析に使用されました。
トレーニングには、座る、伏せる、回る、止まるなど基本的な動作の他、ハーネスやマズルカバーを着ける、唾液採取といった研究所での日常生活に必要な動作も含まれます。トレーニングはすべて報酬ベースで行われ、チーズの小さい欠片などが使用されました。
セッションを録画したビデオから、トレーニングに使用したコマンド以外のトレーナーが発した言葉、動物の名前、笑い声などの発声がすべて「優しい」「中立」「厳しい」に分類評価されました。コマンドの発声は標準化されており、常に中立的な声のトーンであるため除外されました。
「優しい」に分類されるのは少し高めの声で、一般的に犬や赤ちゃんに話しかける時のような抑揚が強い感じです。「中立」は犬に指示を出す時のような大きな変化のない話し方です。「厳しい」に分類されるのは何らかの不適切な行動を止める時に使うような声と口調です。
トレーナーの声と口調で結果に違いが出る
トレーナーの発声と口調が犬やオオカミの行動に与えた影響は明白でした。
「優しい」に分類された話し方の時は、両者ともに尻尾を振る回数が増え、トレーナーに近づき、リラックスした表情を見せていました。また動物が自信を持って行動する様子も観察されました。
一方「厳しい」に分類された話し方の時は、尻尾を振る回数が減少し、トレーナーから後退する回数が増えました。またトレーニングのパフォーマンスは低下しました。
犬とオオカミの違いでは、犬は高音でハッピーな発声に対してより大きな行動変化を示し、オオカミは低音でネガティブな発声に対して、より強く反応し大きな行動変化を示しました。このことは家畜化の過程と関連していると考えられます。
まとめ
犬とオオカミをトレーニングする際に、優しい声で話しかけると両者ともにリラックスしてトレーナーに近づき、厳しい声で接した時には、トレーニングのパフォーマンスが低下して逆効果だったという調査結果をご紹介しました。
研究者はこの結果を受けて、動物が人間の要求と異なる反応を示したとしてもフレンドリーなアプローチを続けることを推奨しています。優しくフレンドリーなトレーニングは、リラックスと自信を生み、動物がよりポジティブな感情を持つようになる可能性があるとしています。
犬のトレーニングの際には、体罰を使わないというだけでは不十分で、厳しい声で叱ったり怒鳴ったりすることも避けるべきという新しい証拠が得られた調査結果です。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13061071