犬の不安症と脳内ネットワーク機能の関連を調査
犬が極端に怖がりだったり、飼い主の側から離れると行動上の問題が多発するといった『不安症』は、飼い主さんたちの悩みの上位に来るものです。過去に怖い経験をしたなど明確な原因がある場合もありますが、理由がわからないことも少なくありません。
人間の場合、不安症(パニック障害、恐怖症、社交不安などいくつかの主要なタイプに分類できる)は、メンタルヘルスの問題の中で最も一般的なものです。犬も同様で分離不安など、いくつかの分類がある不安症は頻繁に見られる神経精神疾患として知られています。
人間の不安症では、脳内ネットワークの機能が関連している可能性が研究によって示されていますが、このたび、ベルギーのゲント大学の研究チームがMRIを使って犬の脳スキャン調査を行なったところ、犬にも同様の可能性があることが報告されました。
MRI画像から犬の脳の「不安回路」を分析
研究チームは不安症のある犬のグループと、不安症のない犬のグループの脳の磁気共鳴画像検査(MRI)を行い、その結果を比較することとしました。
不安症のある犬のグループは13頭の家庭犬でした。犬の行動履歴、診察結果、犬たちの行動と気質について飼い主が回答した2種類の質問票の結果から、不安症であると評価判定された犬たちです。
また、甲状腺機能障害が不安症のような行動の原因になることがあるため、犬たちは血液検査を受けて甲状腺が正常に機能していることも確認されました。
不安症のない犬のグループは、ゲント大学獣医学部で飼育されている25頭のビーグルでした。ビーグルたちには毎日おもちゃが与えられ、1日2回運動場で自由に遊ぶ時間と、学生や管理者による散歩の時間が設けられています。
3ヶ月ごとに健康状態のモニタリング、行動テストを受けて、身体面でも行動面でも正常であると評価された犬たちです。
犬たちには全身麻酔をかけてMRIによる脳スキャンを行いました。人間および他の動物の不安に関する先行研究に基づいて、不安と関連している可能性の高い脳領域(扁桃体、前頭葉、海馬、間脳、視床)を「不安回路」と名付け、ここに焦点を当ててデータが分析されました。
不安症の犬の脳には測定できる違いがあった
2つのグループの犬たちのMRI画像を比較分析したところ、確かに大きな違いがあることが分かりました。主な違いは「不安回路」内のコミュニケーション経路と接続の強さでした。これらの違いは、飼い主が回答した質問票の中の特定の行動のスコアが高いこととも関連していました。
例えば、不安症グループの犬では扁桃体(恐怖や不安の処理に関連する器官)が活発に働いており、これは恐怖に直面した時に、扁桃体と脳内ネットワークの他の部分とのコミュニケーション効率が高いことを示す可能性があります。これらの特徴を示した犬は、質問票の回答で見知らぬ人や犬に対する恐怖心のスコアが高くなっていました。
また不安症グループの犬たちは、海馬と間脳(学習や情報処理に重要な2つの部位)の間のコミュニケーション効率が低いこともわかりました。このことは不安症グループの飼い主に愛犬の訓練性が低いと回答した人が多かったことと関連していると思われます。
この研究はサンプルサイズが小さく、不安症ではない犬たちが皆同じ環境で育てられていることなど、いくつかの限界があると研究者は述べています。
また脳内ネットワーク機能の違いが不安の原因なのか、それとも不安のせいで脳の機能に違いが現れたのかも、この研究ではまだわかりません。しかし不安症の犬の脳が、そうでない犬と比較して測定可能な違いがあることを示す証拠となりました。
今後さらに研究が必要ですが、犬の不安の生理メカニズムが明らかになれば効果的な治療法につながり、人間の行動理解にも役立つと考えられます。
まとめ
不安症のある犬とない犬の脳をMRIでスキャンしたところ、2つのグループでは恐怖や不安に関連する部位と学習や情報処理に関連する部位で、コミュニケーション効率や接続の強さに明らかな違いあったという結果をご紹介しました。
愛犬が何かを怖がったり、分離不安から問題行動をしてしまう時に、脳内ではこのようなことが起きていると知っておくと対応方法も見つけ易くなるかもしれません。
適切な治療を受けることで犬も飼い主さんもより幸せな生活を送れるようになります。愛犬が不安症かもしれないと感じたら獣医師に相談することをお勧めします。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0282087