犬と人間の絆を測定する質問票を検証
犬の行動や認知能力などを一定の基準で判断するためのツールのひとつに、犬の保護者が記入する質問票があります。これらは詳細な項目がたくさんあり、回答を分析することで行動傾向や能力などを可視化するものです。
そのような質問票のひとつとして「犬と人間のつながりの強さ」を測定するというものがあるそうです。犬の行動についての質問票ではC-BARQと呼ばれる標準的なものがあり、さまざまな研究で非常に広く利用されています。
しかし、犬と人間のつながりの強さという行動よりもさらに曖昧なものを測定するツールには、まだ標準とされるものがなく色々な質問票が使われている状態だそうです。
イギリス最大の犬保護団体ドッグズトラストの犬行動学リサーチ部門では、巷で使用されている「犬と人間のつながりの強さ」を測定するための質問票を検証する調査を行い、その結果を発表しました。
現行の質問票や質問項目の弱点が明らかに
研究チームは「犬と人間のつながり」または「動物と人間の相互作用」を測定するための質問票170種類と、そこに含まれる質問569項目を検証していきました。
研究者はそれぞれの質問項目について、犬と人間の関係性においてお互いにどのくらい相手の心理的、および身体的な状態に影響を与えるのかを測定するために、どの程度有効であるかを評価していきました。
2人の研究者が質問項目を個別に評価して合否をつけて行き、結果を照らし合わせて一致していれば評価確定、不一致の場合は議論によって合否が決定されました。
この結果569の質問のうち、犬と人間のつながりの強さを評価するのに適しているとされた(合格した)質問は151でした。
研究者はさらに全ての質問を10のテーマ別に分類しました。このうち犬を中心とした質問テーマは1つしかなく、犬から人間に対する感情移入や愛着に関する質問は全部で18しかありませんでした。
新しく有効な質問票を作るための調査を開始
上記のような検証から、犬と人間のつながりの強さを測定するために現在使用されている質問票は十分でないことが判明しました。
犬と人間のつながりを測定するためのツールとして170もの質問票があるにも関わらず、それら全てにおいて犬の視点からの質問が欠けていたことが明らかになったのですが、犬からの視点での質問を人間が答えるというのは確かに難しい課題です。
当事者である犬は質問に答えることができないので、トレーニング方法、犬の好みの傾向、人間がどのように反応するかを知る必要があり、さらに行動実験による検証を行わなければ、犬が保護者との関係についてどのように感じているかを解釈することができません。
このような点を踏まえて、研究チームは新しく有効なツールを作るための調査を開始しました。
この調査はさまざまな犬種の犬の保護者12名(25歳〜65歳、うち9名が女性)を対象にしてのインタビューという形で行われました。インタビューのテーマは「あなたの愛犬は、あなたとのつながりの強さをどのように示していますか?」というものでした。
インタビューの結果から浮かび上がってきたのは、環境や状況が変化した時の犬と人間双方の適応、犬の好き嫌いへの理解、犬と人間双方が自分にとって嬉しくない行動を肯定するかどうかなどがありました。
これらのことを組み込んだ質問票を作成し利用することで「この飼い主は犬の望ましくない行動に対して限界が近づいている」ということを他者が知ったり、犬の保護者自身が愛犬と自分のつながりを強くするもの、または脅かすものは何であるかを認識する手がかりになる可能性があります。
犬と人間のつながりの強さ(または弱さ)が可視化されることで、適切な介入や支援がし易くなり、飼育放棄や犬の福祉の悪化を減らすことが期待されます。
まとめ
現在使用されている「犬と人間のつながりの強さ」を測定するための質問票が測定評価に有効ではないため、動物保護団体のリサーチ部門が新しく有効な質問票を作成するための調査研究を開始したことをご紹介しました。
質問票などのツールは研究調査のために使われることが多いのですが、一般の飼い主が回答してみると愛犬と自分の関係性を改めて見直すことにつながるのもよくあることです。
自分自身と愛犬のつながりの強さを測定するための質問票がオンライン公開などされたら試してみたくなりますね。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/12/7/805