生き物が共同作業をする時の性質
人間も含めて生き物はいろいろな場面で共同作業を行なっています。しかし、「共同」が意味することは生き物の種によって違います。
個々の生き物が単純に自分の作業を行うことで結果的に共同の目標が達成される場合、また共同作業のパートナーの存在は認識しているがパートナーの行動までは把握していない場合など、その性質は種によってさまざまです。
人間の場合、複数で共同作業を行なって目的を達成するためにはパートナーの行動を考慮して、タイミングを測ったり自分の行動を制御したりする必要があります。では、人間との共同作業の長い歴史を持っている犬の場合はどうでしょうか。
この度、アメリカのジョージア州立大学とオーストリアのウィーン獣医科大学の研究チームが、「共同作業において犬はパートナーの行動を考慮しているか?」という点を明らかにした調査結果を発表しました。
犬がパートナーと同時にボタンを押す共同作業
調査のための実験に参加したのは、様々な犬種の21頭の家庭犬とその飼い主でした。犬たちは飼い主をパートナーとして、共同でボタンを押すとトリーツが得られるという行動のトレーニングを受けました。
共同作業実験は次のようなものでした。犬とパートナーは、お互いの間に仕切りがあるが互いに見える状態で待ちます。
犬が先走ってボタンを押しても、あるいはボタンを押すのが遅すぎてもトリーツは得られません。トリーツを手に入れるためには、パートナーの行動をよく見て考慮する必要があります。
トレーニングではパートナーの前にボタンを置くのをわざと遅らせたり、パートナーの目線を隠すためにサングラスをかけるといった難しい条件も取り入れられました。
トレーニング完了後、次の4つの条件で実験が行われました。
- 1. 犬の前にボタンを置いた後、3秒の時間を置いてパートナーの前にボタンを置く。この条件では犬は両方のボタンが見えるまで待っていることが必要です。
- 2. 犬用ボタンとパートナー用ボタンの両方が置かれているが、パートナーが来るのが遅れる。この条件では犬がパートナーの存在を確認するまで待つことが必要です。
- 3. 犬とパートナーの前にボタンが置かれるが、パートナーがボタンを押すまで時間を置く。1の条件では「ボタンがない」、2の条件では「パートナーがいない」ので判断が簡単ですが、ボタンもパートナーも揃っているこの条件では、犬はパートナーの行動を考慮する必要があります。
- 4.犬とパートナーの間に目隠しのカーテンを設置する。この条件は、たまたま偶然に成功する回数を推定するために行われました。
犬は共同作業のパートナーの行動に注目し考慮している!
実験の結果は、パートナーの行動が見える1、2、3の条件では約半数の割合でトリーツを得ることに成功しました。一方パートナーが見えない4の条件では、成功率は極端に低下しました。
これは犬が闇雲にボタンを押しているのではなく、ボタンとパートナーの存在、パートナーの行動に注意を払い理解していることを示します。
トレーニングではパートナーの前にボタンを置くのを遅らせる条件は行われましたが、パートナーの行動そのものを遅らせたのは実験の時が初めてでした。それでも成功率が変わらなかったことは、犬が共同作業に必要な行動を理解していたと考えられます。
1〜3の条件で成功しなかった例では、犬が先にボタンを押してしまった場合が多かったのですが、4の目隠し条件では、犬がボタンを押すという行動そのものが明らかに少なくなっていました。
このことからはトリーツを得ることには成功しなくても、犬がボタンを押すという共同作業を理解しているのだと考えられます。
これらの結果から、犬は共同作業におけるパートナーの行動の重要性を(少なくともある程度は)理解していることが示されました。
まとめ
犬とパートナーの人間がボタンを押すという共同作業でトリーツを得るという実験から、犬は共同で目的を達成するためにパートナーの存在や行動を考慮し理解しているという報告をご紹介しました。
この実験では飼い主がパートナーになりましたが、見知らぬ人間がパートナーになった場合、犬同士で同様の実験を行なった場合の協調性について、今後さらに研究が必要だということです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.2189