犬にもある反抗期
人間の場合、自我が芽生える3〜4歳頃の幼児期と12〜15歳頃の思春期に、反抗的な態度を示す時期が訪れます。前者は「イヤイヤ期」、後者は「反抗期」と呼ばれ、いずれも自我の発達に深く結びついています。特に反抗期は、親との関係性や第2次性徴の出現が関連しています。
2020年に発表された論文で、犬も初回発情の頃から思春期に入り、人間のように飼い主(親)には反抗的な行動が多くなることが明らかになりました。また犬の場合も人間のように、飼い主に対する愛着が強いと平均よりも1〜2ヵ月早く初回発情が起こり、飼い主への興味が薄いと遅くなることも分かりました。
個体差はありますが、小型犬の場合は生後4ヵ月から6ヵ月頃、大型犬の場合は生後9ヵ月から12ヵ月頃が思春期です。1〜2ヵ月も早まることがあることを考えると、動物愛護法で認められている56日齢以降の小型犬を迎え入れた場合、すぐに反抗期になる可能性も覚悟しておく必要があるでしょう。
犬の反抗期にしてはいけないNG行為と正しい対処法
では、犬の反抗期にしてはいけないNG行為にはどのようなものがあるのでしょうか。正しい対処法と合わせて確認していきましょう。
1.弱気な対応
あまりにも反抗的な行動に弱気になり、すぐ要求に応えてしまってはいけません。そうすることで、「咬めば要求が通る」「唸れば思い通りになる」と学習をしてしまい、反抗期が終わった後もずっと攻撃的な行動を続けてしまうことがあるからです。
「ダメ」などの短くて分かりやすい単語を決め、やってはいけないことをした時は明確に伝えましょう。
2.叱りつける
要求を叶えたくて吠え続けている場合、大声で叱りつけたり体罰を与えたりくどくどと説教したりしてはいけません。
こういうときの愛犬は、気持ちが満たされていない状態です。できるだけ愛犬の気持ちが満たされるように心がけましょう。
日頃から十分に散歩をさせたり一緒に遊んだりしてストレスを発散させ、しっかりとコミュニケーションを図ることで心が満たされるような状況を作りましょう。
3.好きな食べものだけ与える
ご飯を食べなくなった場合、「反抗期だから仕方ない」と好んで食べるものだけを与えてはいけません。体調を崩したり、「食べなければ好きなものをもらえる」と学習して反抗期後も好きなものしか口にしなくなることもあるためです。
健康面で問題がなければ、給仕量を減らしたり、残した分はすぐに片付けたりしましょう。
4.何もしない
「反抗期が終われば元に戻るだろう」と、何も対処しないのもよくありません。反抗期でもしつけはできます。例えばトイレの失敗が増えたのなら、初心に戻ってもう一度トイレトレーニングを行いましょう。
この時期になると、外で排泄できるようになります。散歩の時に外で自由に排泄する癖をつけてしまうと、ご近所トラブルの原因を作ってしまいます。室内でのトイレトレーニングを根気よく行い、外でのトイレやマーキングを習慣化させないようにしましょう。
5.愛犬の心の乱れを気にしない
反抗期の犬は警戒心や恐怖心が強まるため、今まで平気だった状況にも強いストレスを感じるようになります。そのため、他の犬などに攻撃的になりやすいのです。このような気持ちを理解せず、これまで通りの暮らしを続けるのも歓迎できません。
例えば散歩の時間帯やコースをずらすことで、他の犬との出会いを減らすこともできるはずです。また他の犬とすれ違う際におやつを使い、愛犬の気持ちを飼い主さんに向けることもできます。愛犬が反抗期特有の行動を起こす状況を、なるべく作らない工夫も心がけましょう。
反抗期のサイン
人間の青年と同じように、ほとんど反抗することなく思春期を終える子もいれば、飼い主をひどく悩ませるほど反抗的になる子、反抗的ではあるものの飼い主をさほど悩ませない子など、反抗のレベルや期間もさまざまです。
反抗期の犬が見せるサインをまとめると、下記になります。よく観察し、反抗期なのか他に理由があるのかを見極めることが大切です。
- 見知らぬ人には従順だが、飼い主の言うことは聞かない
- こだわりが強くなり、食べ物おもちゃしたいことへの執着が強く頑固になる
- 自己主張が強くなり、物や場所を守ろうとして攻撃的になる
- 警戒心が強くなり、聞き慣れない音や見知らぬ犬、人に吠えるようになる
- トイレの失敗、またはわざとトイレ以外の場所で粗相をすることが増える
- ご飯を食べなくなる
反抗期になる理由
社会化期といわれる生後2〜3ヵ月頃の子犬は、とても好奇心旺盛でさまざまな刺激を寛容に受け入れられるため、犬同士や人とのコミュニケーションのとり方などをぐんぐんと身につけていきます。
しかし社会化期を過ぎ、性成熟を迎える生後4ヵ月頃から自我が芽生え始めます。これが、いわゆる思春期の始まりです。自我が芽生えることでさまざまなものに対するこだわりが強くなり、嗜好の方向性も定まってきます。それが柔軟性の低下につながり、飼い主に対する反抗的な行動としてあらわれるのです。
オスの場合は性ホルモンの影響により、これまで以上に縄張り意識や警戒心、闘争心が高まります。その結果、問題行動となるほど攻撃性が高まってしまうのです。社会性を身につけていない子犬は、その傾向がより強く見られます。
また思春期は「恐怖心」と同時に「自信」も出てくるため、相反する気持ちで葛藤状態になり、結果として反抗的な行動が生じるのだともいわれています。
いずれにしろ、社会性を身につけさせ、反抗期を迎える前に「マテ」「フセ」「コイ」といった基本的な指示を聞けるようにしておくことが大切です。間に合わなかった場合は、反抗期中もトレーニングを継続しなければなりません。
まとめ
犬にも反抗期があり、人間の反抗期とよく似た面があることが分かりました。
反抗期は心と体の成長の過程に見られる一過性のものです。しかし、対処を間違えると誤った学習をさせてしまい、問題行動がそのまま定着してしまうことも。
そのため、それぞれの犬に合った正しい対処法を知り、愛情を持って対応していくことが必要です。