犬が若い頃に食べていたものが、後に腸疾患に関連する可能性
犬でも人間でも食事の内容は腸内環境に大きく影響し、消化器官も含めて体全体の健康を左右します。確かに特定の食べ物を摂るとお腹がゆるくなったり、消化不良を起こしたりすることがありますが、長期的な影響についてはどうなのでしょうか?
このたびフィンランドのヘルシンキ大学獣医学部の研究チームが、犬の生涯の後半における慢性腸疾患の発症と、子犬期と若年期の食事との関連について調査した結果を発表しました。
慢性腸疾患のリスクを低下させる食べ物、上昇させる食べ物
研究データは、2019年に同大学が行なった「犬の食物摂取の頻度調査」から抽出されました。これは飼い主を対象とした調査票で、愛犬が子犬期、若年期、成犬期にどのような食物をどのくらいの頻度で食べていたかについての質問と、犬の健康状態やライフスタイル、生活環境などに関する質問で構成されています。
今回の調査では健康状態の中でも、慢性腸疾患について分析が行われました。慢性腸疾患とは3週間以上にわたる腸の炎症の通称で、下痢、嘔吐、体重減少を特徴とする消化器疾患です。食事療法や抗生物質、ステロイドでの治療が可能です。
ドライドッグフードのみを食べていた犬に比べて、生肉、内臓肉、魚、卵、野菜、ベリー類、芋類などを与えられていた犬は、後年慢性腸疾患に罹る確率が有意に低いことがわかりました。ここには人間の残飯なども含まれます。
研究者はドライドッグフードの加工度の高さと食品添加物の多さ、炭水化物含有率の高さが消化器官に負担をかけることを指摘しています。
子犬期に生の食事を食べていた犬は慢性腸疾患のリスクが22.3%低下、調理された魚や野菜を食べていた犬は22.7%低下、ドライフードのみを食べていた場合はリスクが28.7%上昇していました。
若年期では生の食事で12.7%のリスク低下、調理された食事で24%のリスク低下、ドライフードのみの場合14.6%のリスク上昇でした。
特定の食品については、子犬期に生の骨や軟骨を週に2〜3回与えると慢性腸疾患のリスクが33.2%低下、ベリー類を年に2〜3回与えると28.7%のリスク低下が報告されています。反対にローハイド製品を毎日与えるとリスクは117.2%上昇しました。
研究結果を見る時に気をつけたいこと
この調査結果はドライフードやローハイドなど人工的な加工度の高い食事ほど、後の慢性腸疾患との関連が強いことを示していました。研究者はローハイドを与えないこと、ドライフードを与える場合は週に何度かでも加工度の低い食事を与えることで保護効果があると述べています。
この研究では生肉が後年の腸疾患のリスク低下に関連していると結論づけられていますが、生肉給餌の抗生物質耐性菌は世界の多くの国で問題視されているので、家庭で調理した加工度の低い食材が望ましいという気がします。
またこの研究結果を受けて欧米のメディアが「犬には人間の残飯が良いらしい」という見出しで報道をしていますが、これには注意が必要です。
フィンランドの家庭料理は肉、魚、オート麦、大麦、根菜類などをシンプルに調理したものが多く濃厚な味付けやソースは一般的ではありません。つまり、もともと犬に与えても問題のないものが多いということです。また論文では「残飯(ただし犬に安全なもののみ)」と注釈が付いています。
またベリー類を「年に2〜3回」というのも、野生のブルーベリーやコケモモなどを犬が自由に食べることを指しています。ベリー類が自生している場所に実がなっている時期に行って犬が好きなだけ食べるのが年に2〜3回ということですので、日本人がイメージする「犬にもベリー類」とはかなり違いますね。
まとめ
ヘルシンキ大学による調査から、子犬〜若年期に加工度の高い食品のみを食べていた犬は後年に慢性腸疾患発症のリスクが高いことがわかったという結果をご紹介しました。
この調査は飼い主からの回答をデータとしていますので、リスク低下や上昇の因果関係については推測の域を出ません。またこの調査結果をさらに検証するためには、犬の生涯を通じた食事内容の調査など、さらなる研究が必要だということです。
ドッグフードの加工度の高さについては過去にも指摘されていますが、手軽に栄養バランスが取れた食事ができることで、犬も飼い主さんも助けられる面があるのも確かです。
また一口にドッグフードと言っても、その内容や品質は実に千差万別です。大切な愛犬の食事ですから、さまざまな選択肢の良い面と悪い面を冷静に判断したいものです。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-023-27866-z