国際的な犬の研究共同体『Many Dogs』
私たちにとって最も身近な動物である犬は、科学の研究対象としても注目されています。過去20年の間に犬に関する研究は飛躍的に増えました。そしてこの度、ドッグサイエンスに取り組む世界各国の研究者による研究共同体がスタートしました。
Many Dogsと名付けられたこの国際的な共同体は、犬にまつわるさまざまな課題について、オープンサイエンスを実践することを目的としています。
オープンサイエンスとは、専門家以外の人々も科学研究の成果や情報にアクセスしたり、研究に参加したりできるようにする活動のことです。
犬の研究を共同で行う理由とは?
1990年代後半まで、家庭犬が行動科学の研究対象になることはほとんどありませんでした。この20年の間に犬に関する研究が増え、犬を専門に研究する機関も増えたのですが、ほとんどの研究機関は使用するサンプルサイズが小さいため研究結果に限界があります。加えて地域性や文化の違いによる影響もあります。
共同研究体はこれらの問題を解決する良い手段です。世界各地でサンプルを集めて研究することでサンプルサイズの問題が解決されます。さまざまな地域の研究者が厳密に同じ方法を設定して、調査や実験を行うことで重要な知見の再現性を高め、地域性や文化の違いを比較研究することもできます。
現在Many Dogsに参加している研究機関は、アメリカからNY市立大学ハンター校シンキングドッグセンターなど8団体、カナダからマニトバ大学比較認知研究所、ヨーロッパからエトヴェシュ・ロラーンド大学ファミリードッグプロジェクトなど6団体、アルゼンチンから国立科学技術研究委員会イヌ行動調査グループの計16団体です。
Many Dogs プロジェクトはすでに開始中
Many Dogsによる最初のプロジェクトはすでに始まっています。このプロジェクトは犬と人間の社会的コミュニケーションに関するもので、犬が指差しジェスチャーをどのように理解するのかが焦点となっています。
犬が指差しジェスチャーに反応することはすでに多くの研究で示されていますが、それがコミュニケーション上の合図として理解しているのか、命令としてそのジェスチャーに従わなくてはいけないと理解しているのかは、議論の分かれるところです。
このプロジェクトでは指差しジェスチャーの実験方法について手法の詳細を統一して標準化しました。実験を行う場所が室内か室外か、部屋の大きさ、飼い主の存在などの条件を統一するということです。
一方で、犬種、犬の性別、年齢などは統一した条件を設定しないで、どのような因子が犬の行動に影響を与えるのかを探索分析することとしました。
このプロジェクトには北米、南米、ヨーロッパから19の研究機関が参加し、約700頭の犬のデータが収集されたとのことです。研究結果の発表は改めて行われます。
まとめ
犬に関する科学的研究を行う国際的な研究共同体Many Dogs が始動したことをご紹介しました。
人間に最も近い環境で暮らしている動物である犬の行動や認知の研究は、犬をより深く理解することはもちろん、人間の健康についての理解をもサポートします。
このような大規模な研究共同体が立ち上げられ、オープンサイエンスを目指していることは一般の飼い主にとっても嬉しいことです。
Many Dogsでは研究機関や犬の専門家の参加を募っています。今後アジア、オセアニア、アフリカなどの地域からも参加機関が増えていくと、さらに興味深い報告が届けられそうですね。
《参考URL》
https://manydogsproject.github.io
https://psyarxiv.com/j82uc/