犬の前十字靭帯断裂についての調査
犬の前十字靭帯断裂は、犬の関節の疾患の中でも最も多い部類に入る疾患です。前十字靭帯は犬の後ろ脚の膝関節の中にあり、太ももの骨と脛(すね)の骨をつなぎ膝関節を安定させる働きを持っています。
人間の場合、前十字靭帯断裂はスポーツや事故などでの外傷によって起こることが多いのですが、犬の場合は後ろ足を引き摺るようになり、調べてみたら前十字靭帯が断裂していたという明確な理由がわからないものがほとんどです。
この度、イギリスの王立獣医科の疫学調査の研究チームが、イギリス国内の動物病院で前ん十字靭帯断裂と診断された犬のデータを分析し、その結果を発表しました。
イギリス国内の動物病院の診療データを使って分析
王立獣医科大学ではイギリス国内の一般動物病院の診療データを、匿名化した上で共有するプログラムを運営しています。VetCompassと呼ばれているこのプログラムによって、特定の病気などについてイギリス全国の診療データを調査研究に使うことができます。
今回の研究では、VetCompassに参加している動物病院の2019年の診療データから前十字靭帯断裂と診断された1,000件の症例と、この疾患を持たない50万件のデータを対象として調査分析が行われました。
前十字靭帯断裂と診断された犬とそうでない犬の、犬種、年齢、体重、不妊化手術の有無、治療のための手術を受けたかどうか、ペット保険加入状況などが分析されました。
発症のリスクの高い犬種
分析の結果は以下のようなものでした。
- 診断された犬の年齢で最も多いのは6歳〜9歳
- オスメスともに不妊化手術済みの犬の方がリスクが高い
- 高リスク犬種は、ロットワイラー、ビションフリーゼ、ウエストハイランドホワイトテリア
高リスク犬種のうち発症の確率を雑種と比較した場合に、ロットワイラーは3.66倍、ビションフリーゼは2.09倍、ウエストハイランドホワイトテリアは1.8倍、ゴールデンレトリーバーが1.69倍、ヨークシャーテリア1.53倍、ジャックラッセルテリア1.43倍という結果でした。
雑種と比較した場合の発症リスクの低い犬種は、チワワ0.31倍、シーズー0.41倍、ジャーマンシェパード0.43倍でした。
前十字靭帯断裂の治療のために外科手術を受けたかどうかでは、ペット保険に加入している犬、体重20kg以上の犬が手術を受けた割合が高くなっていました。
反対に手術を受けていない割合が高かったのは、9歳以上の犬、診断時に整形外科以外の病気が1つでもある犬でした。
この研究は前十字靭帯断裂の症例に関するこれまでで最大規模のものです。これまで臨床現場での所見から「好発犬種」とされていた犬種についてデータの裏付けが取れたことは重要です。
また一般の飼い主はこれらの結果を知っておくことで、愛犬の歩き方がおかしい時の早期対処、ペット保険の見直しや検討などに役立つと思われます。
まとめ
イギリス国内の動物病院の診療データから前十字靭帯断裂の高リスク犬種や、治療方針に影響を与える要因などが明らかになったという発表をご紹介しました。
ここで挙げられた高リスク犬種はもちろんのこと、他の犬種であっても犬が突然後ろ脚を引きずって歩くようになったら、まずは様子見などと言わずに早急に動物病院での受診が必要です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2023.105952