犬が噛むのには理由がある
まず、犬が噛むのには必ず理由があります。理由もなく噛むということはありません。
例えば、犬は強い痛みを抱えているとき、その部位に触ろうとしたり触ったりすると「やめろ!触るな!」という意思表示として、噛むという行動をしてしまうことがあります。
外耳炎が悪化していたり足を痛めていたりなど、その部位には触れてほしくないから噛むわけです。
自分の立場で考えてみるとわかりやすいと思いますが、どこかを痛めているときにその部位に触れてほしいと思いますか。
たとえどんなに力加減や触り方を相手が気をつけていたとしても、激しい痛みに襲われるかもしれないという恐怖で避けてしまうのではないかと思います。
それは犬も同じです。痛いから触ってほしくない、触られると痛い、だからやめてほしくて噛むわけです。
そしてこの噛むという行動は、その理由が「痛み」であるとき以外にも使われます。それは「やめて!」という意思表示であるということです。
本来犬は、噛むという行動をする前に、さまざまな仕草や行動でいくつもサインを出して「やめて!」という気持ちを伝えています。
それは犬にとって不快な環境を変えるための手段ですが、それでもそれが叶わないとき仕方なく口を使って噛んで伝えるしかないのです。
つまり、犬にとっては、いろいろなサインを出していたけれど伝わらず、最終的に口を使わなければいけないほど絶対的に回避したい状況だったのだ、とも言えます。
犬が噛むにも強さのレベルがある
そして「犬が噛む」と一口に言っても、その噛むという行動自体にも実は強さのレベルがあります。
人間は犬の歯が少しでも当たると「噛まれた」と言いますが、実際は噛んですらいないことはとても多いです。犬からしてみれば歯を当てただけに過ぎず、それによって状況を変えようとしているだけ。
しかし、人間は意思表示をするために噛むという行動は基本的にはしませんし、噛むときは本当に「噛む!」という意思を持って噛みつくでしょうから、犬にとっては歯を当てただけに過ぎなくても「噛んだ」と認識するでしょう。
そして犬が口を使って意思表示をする方法の「噛む」ということ自体にもレベルがあると言いましたが、以下のように「噛む」にも段階があるのです。
1.歯を当てるだけ
2.少し歯の跡が残る程度に噛む
3.噛まれた箇所がうっ血するくらいの強さで噛む
4.出血を伴う強さで一度だけ噛む
5.穴が空き出血をする強さで瞬時に数回噛む
6.肉がえぐれる強さで噛む
7.噛みついて離さず肉がえぐれ出血するほど噛む
このように、犬の「噛む」という行動には、それぞれさまざまなレベルが存在していることがわかると思います。
レベルが高くなればなるほど犬のそれは本気度を増し、本気の戦いになればかなりの被害を与える状況にもなります。
しかし、基本的に犬は戦いを好みません。だからこそ、戦いを避けるために「そうなる前にやめてね」「やめようね」「お互い平和に過ごそう」というサインを出しているのです。
犬が噛まずに済む環境の構築が必須
戦いに発展するということは、お互いに負傷し命を脅かす危険がありますから、犬はそれを回避したいと考えています。
それでも相手が無礼な態度を示してくると闘争という状況になりますが、人間と生活するうえで闘うという状況はそうそうないはずです。
ですが、人間がアザだらけ出血まみれになってしまうほどの攻撃を犬がしなければならないというケースは多く、それをやめさせるために人間は「躾」として犬と戦うことを選択しがちに感じます。
しかし人間がやるべきことは、犬と戦って犬を矯正しようとするのではありません。犬が噛んで攻撃をするという行動をしなくても済むような環境にすることです。
その上で、どうしてもしなければいけないことなのであれば、人間がやるべきことは、犬がそれに対して不安や恐怖のようなネガティブな気持ちをもつ必要がないように工夫をし、少しでも不安や恐怖が見られればすみやかにそれを取り除けるようにすることが先決です。
さらに、どんなときにどんなことをすると犬が嫌がるのかを観察して把握し、どうすれば事象に対して不安や恐怖のようなネガティブな気持ちを取り除いてポジティブな気持ちを与えることができるのかを考え、少しずつ試すことが必要です。
人間の役目は、このように犬にとっての負を取り除き、正を与え、安心してもらうこと。決して犬を悪者にして矯正することではありません。
まとめ
ここまで読んでいただいて、まだ噛む犬は悪い犬という考えは拭い去れないでしょうか。もしどうしても「噛む犬=悪い犬」と考えてしまうのであれば、犬と関わるのはおすすめできません。
また、すでに犬と生活を共にしていてその考えの場合は、一度立ち止まって深呼吸をし、「もし自分がその立場だったら?嫌だと思ってるのに変わらない状況を変えるためにどうする?」と自問自答してみてください。
噛む犬が悪いのではなく、噛まなければいけない状況が悪いのです。その状況をどうにかしたいと考えている犬のために、人間はその状況を変えてあげる必要があります。