伝えるためには知る努力も必要
愛犬への愛情は、スキンシップ、声がけ、楽しい散歩や遊びなどを通して伝えられます。このことは、犬と一緒に暮らしている飼い主さんであれば、書籍などからの知識や経験から理解されていて、実践されている方も多いことでしょう。
しかし人間の感覚のままに表現してしまったがために、実は愛犬に愛情がしっかりと伝わってはいないこともある、ということに、気付いておられるでしょうか。
こちらの思いを正しく伝えるためには、まず愛犬のことをよく知るための努力が必要です。愛犬の言葉であるボディランゲージ、とりわけストレスサインであるカーミングシグナルを知ることで、こちらの思いが届いているのか嫌がられているのかが分かるはずです。
今回は、犬に伝わらっていない「愛情表現の方法」について、その理由や正しく伝えるための工夫点とあわせてご説明します。
1.ハグ、キス、抱っこ
私達人間は、いくら大好きな相手でも、四六時中ベッタリと寄り添われると嫌な気分になるものです。人にはパーソナルスペースというものがあり、その範囲内に踏み込まれることを好まない、という傾向があるからです。
同じく、犬にもパーソナルスペースがあります。その広さは犬によって異なりますし、相手への信頼度によっても変わるでしょう。しかし相手がどんなに信頼している飼い主さんでも、四六時中パーソナルスペースに踏み込まれたらやはり良い気持ちではいられないはずです。
そのため、私たちが愛情表現としてやりがちな「ハグ」を、あまり快く思わない犬が多いようです。同じ理由で、キスや抱っこもあまり好きではないという犬が多いです。
例えば、ハグをされた時に緊張してしまい、顔の筋肉が硬直することで黒目の端に白目が見えている犬がいます。これは、ハグをされていることに対して嫌がっているサインです。
愛情表現としてハグや抱っこ、キスをされる方は多いでしょうが、愛犬の様子をよく観察しながら、適度な力加減などを調整する、または別の表現方法を使う方が良いようです。犬は露骨に嫌がらなくても我慢していることがあるため、愛犬の緊張度合いを気にかけましょう。
2.ながら遊び
犬にとって、運動やストレス発散はとても大切です。それをよく理解しているからこそ、忙しい時につい別のことをしたり考えたりしながら愛犬と一緒に遊んでしまう飼い主さんもおられるのではないでしょうか。
「今日は忙しいから、一緒に遊ぶ暇がない。でも全く遊ばないのはかわいそうだ。せめてメールチェックをしながら遊んでやろう。」とか「せめて資料の構成を考えながら遊んでやろう。」という具合です。
他のことに気を取られながら一緒に遊ぶと、すぐにそれは愛犬に伝わります。そして(自分は愛されていないのだ)と感じてがっかりしてしまいます。飼い主さんの「遊ばないのはかわいそうだから」という愛情は少しも伝わらず、かえって愛情不足を感じさせてしまうのです。
どんなに忙しい時でも、5〜10分程度で良いので真剣に愛犬にだけ向き合う時間を作りましょう。数分でも真剣に愛犬と向き合えば、愛情はしっかりと愛犬に伝わるはずです。
3.間が悪い愛情表現
パーソナルスペースを持っている犬も、信頼している飼い主さんとのスキンシップは好きだという犬が多いのも確かなことです。優しく声をかけながら、おでこや頭、首や胸周りなど、愛犬が好む部位をやさしく撫でるのは、良い愛情表現になります。
ただし、飼い主さんの都合や感情のままに行うのはいけません。食事中や眠っている時、または眠くてウトウトしている時、更には何かに集中している時などは、愛犬にとって間が悪いタイミングです。これでは愛犬に全く伝わらないでしょう。
自分がされて嫌なタイミングがあるのと同様に、愛犬の嫌なタイミングも考慮しなければなりません。相手の立場に立ち、喜んでもらえるタイミングで愛情表現をすることが、しっかりと伝えることのできるタイミングなのです。
4.言葉でくどくど説明
動物行動学などの専門家による研究で、犬は数多くの単語の意味を覚えられ、声のトーンや表情から飼い主さんの感情を読み取れることが分かっています。ただし、長い文章を理解することはできません。
そのため、愛犬に対して飼い主さんがどんなに愛情を抱いているのかを、言葉でくどくどと説明しても、おそらく殆ど伝わらないでしょう。もちろん愛情表現ですから、穏やかな表情や優しい口調で話しかけているはずなので、不快ではないと思います。
しかし、全く知らない外国の言葉で延々と愛を告白されてもちっとも嬉しくないのと同じように、愛犬もくどくどとわからない言葉で説明されている間、あまり良い気はしていないはずです。
愛犬には穏やかな表情と優しい口調で、「いい子だね」とか「好きだよ」といった、いつも使う短い褒め言葉等で愛情を伝える方が、分かりやすくてずっと効果的でしょう。
まとめ
長い時間一緒に過ごしている愛犬は、飼い主さんにとってご家族やパートナー、もしくは子どものように愛おしくて大切な存在でしょう。そのため、つい人間の家族のように接してしまうかもしれません。しかし人間と犬では、感性の異なる部分があります。
また人間のように言葉で拒絶することがなく、黙ってされるがままに我慢してしまう犬だからこそ、嫌がっていることに気付けないということもありそうです。
人間と犬という異なる種同士のコミュニケーションは、人間同士以上に相手の気持を察する努力が必要になるはずです。犬のボディランゲージやカーミングシグナルを学び、愛犬に伝わる愛情表現をたくさんしてあげましょう。