犬は人間の意図をわかっているか?を調査
犬は人間と共に同じ環境で暮らしているので、私たちの意図するところを理解しているように見えることがよくあります。しかし実際にどのくらい人間の意図を理解しているのかは、まだはっきりとはわかっていません。
このたびオーストリアのウィーン獣医科大学メッサーリ研究所が、人間から犬に対するいくつかの行動について、結果は同じだがその意図するところが違うという実験を行い、観察分析した結果を発表しました。
意地悪、不器用、無能の条件で犬にトリーツを与えない実験
実験は2回に分けて行われました。実験は研究所の実験室で実施され、2回とも同じ装置が使用されました。装置は上部がオープンになった金網のケージで一面だけが透明なブラスチック板になったものです。
ブラスチックの板には6つの穴が開いています。ケージの中に実験者が入り、透明な板越しに犬と対面します。6つの穴から犬にトリーツを与えられるようになっています。
1回目の実験に参加したのは1歳〜12歳(平均年齢6.5歳)の48頭の家庭犬でした。ケージの中に入る実験者は3名の実験者が1名ずつ入り、それぞれに違う行動を示します。
(意地悪条件)穴からトリーツを出して犬が近づいてくると、素早く引っ込めるという意地悪な行動をします。
(不器用条件)犬が近づいてくると不器用にトリーツを落としてしまいます。
(無能条件)別の透明板で穴を塞いだ上で、穴の部分からトリーツを出そうと苦心する様子を見せます。
どの条件でも犬はトリーツをもらうことができなかったのですが、実験者が行動している間の犬の行動が録画され観察されました。
2回目の実験に参加したのは、1.5歳から16歳(平均年齢7.5歳)の48頭の家庭犬でした。1回目の実験の意地悪条件と不器用条件と同じ実験をした後に、それぞれの実験者がトリーツの入ったボウルをそれぞれの側に置き、犬の前で同時にボウルを指差したところ犬はどちらの人のボウルを選ぶかが観察されました。
犬は相手の意図を区別して行動している
3つの条件の行動に対する犬の反応は明白でした。犬の前でトリーツを引っ込めるという意地悪をする相手の場合、犬は視線を逸らす、その場で寝そべる、飼い主のもとに戻っていくなどの行動が多く見られました。
トリーツを与えようとするのに落としてしまう不器用な相手の場合、犬は忍耐強く待っている時間が長くなりました。
塞がれた穴からトリーツを与えようと苦心する無能な相手の場合、犬は最も早く離れていってしまいました。また実験装置のケージの金網部分に回り込み、実験者に近づこうとする犬もいました。
2回目の意地悪条件と不器用条件の後にどちらの実験者から好んでトリーツをもらうかという実験では、有意な違いは見出されませんでした。
視線を逸らす、寝そべるという行動は相手を宥めようとするカーミングシグナルであると考えられます。意地悪条件でのみ多く観察されたことから、犬が実験者の意地悪な意図を宥めようとした可能性があります。
また日常生活の中では、不器用な人のそばにいると食べ物を落とす可能性が高いことから、不器用条件では忍耐強く待っていたことも考えられます。
実験の結果は、トリーツをもらえないという結果は同じでも人間の行動の微妙な違いを敏感に感じ取り、それに応じて行動を区別して調整すること示していました。
この区別のもとになる認知能力が、学習によるものかどうかまではこの実験ではわからないため、「理解」ではなく「区別」という言葉が使われています。犬がこの能力をどのようにして身につけるのかは今後の研究課題だということです。
まとめ
犬が実験装置の中の人からトリーツを受け取れなかった時、意地悪な行動で焦らした場合、不器用に落としてしまった場合、相手にトリーツを渡す能力がなかった場合という意図の違いを犬が区別して違う行動を示したという実験結果をご紹介しました。
犬の前でトリーツをちらつかせて焦らして、からかうという人間の行動はよく目にします。人間は冗談のつもりでも、犬が人間の意図を区別しているとしたら、このような行動は犬と信頼関係を崩していくことにもなります。
最後に、実験に参加した犬たちには最終的にきちんとトリーツが与えられたそうですのでご安心ください。
《参考URL》
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.1621