犬に出来てブタには出来ないコミュニケーションの方法とは?【研究結果】

犬に出来てブタには出来ないコミュニケーションの方法とは?【研究結果】

犬のコミュニケーションスキルの高さはよく知られていますが、他の家畜動物であるブタと比較してどこが違うのかを明らかにした研究結果が報告されました。

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犬とブタの人間とのコミュニケーションを比較

男性に抱かれている子ブタ

犬と暮らしている人ならよくご存知のように、彼らはさまざまな方法で私たち人間とコミュニケーションを取っています。では、犬と同じようにコンパニオンアニマルとして社会化された家畜動物ではどうなのでしょうか?

このたびハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究者チームが、コンパニオンアニマルとして飼育されている犬とブタを対象にして、人間とのコミュニケーションに関する調査を行いました。

同大学では1994年から『ファミリードッグプロジェクト』という家庭犬の認知や行動を調査研究する長期プロジェクトを実施しており、数々のユニークな研究結果が発表されています。

これに加えて2017年からは『ファミリーピッグプロジェクト』というブタを対象にしたプロジェクトが開始されました。

ミニチュア種の子ブタを生後8週以降に、一般家庭でコンパニオンアニマルとして犬とよく似た環境で飼育し、その認知や行動を研究したり犬との比較を行うというものです。

特定のものに他者の注意を向けるためのコミュニケーション’

訴える視線の犬

この研究で調査されたのは、「リファレンシャル・コミュニケーション」についてでした。リファレンシャル・コミュニケーションとは、環境の中の特定の存在に他者の注意を向ける行為のことです。

例えば、子どもが親に対して「あそこに白と黒のブチ模様の子猫がいるよ」と指差して伝えることは、「あそこという場所を指差す行動」と「白と黒のブチ模様の子猫という言葉での描写」で、子猫という特定の存在に親の注意を向けるリファレンシャル・コミュニケーションです。

同じような環境で育ち社会化されている犬とブタは、このリファレンシャル・コミュニケーションのスキルを持っているのでしょうか?

調査のための実験に参加したのは、8ヵ月齢〜10ヵ月齢のブタ11頭と、7ヵ月齢〜9ヵ月齢の犬13頭で、全員がプロジェクトに参加しており8週齢から人間の家庭で生活し同様の社会化を経験しています。

またブタも犬も以前の研究から、生後4ヵ月で人間とのコミュニケーション行動を取ることが示されています。

実験は研究室で行われました。部屋には上部が開閉するプラスチック製のコンテナ(43 × 37 × 59cm)が置かれています。

上部の蓋は犬やブタには開けることができません。コンテナはたくさん隙間があって、中に食べ物を入れると匂いを感じ取ることができます。

最初に「空っぽのコンテナと飼い主と犬またはブタ」という状態で動物の行動が観察されました。

次に「研究者がコンテナに食べ物を入れて離れ、犬またはブタだけが残される」という状態、最後に「食べ物の入ったコンテナと飼い主と犬またはブタ」という状態で、同様に観察が行われました。

他者に注意を向けさせるコミュニケーションができる動物の共通点

飼い主を見上げるラブラドール

空っぽのコンテナと飼い主だけがいる部屋では、犬もブタも飼い主に対して良く似たコミュニケーションを示しました。どちらも飼い主のそばにいることを好み、飼い主に注目する行動が多く観察されました。

食べ物の入ったコンテナと動物だけの状態では、犬はブタよりもドアに向かって出ていきたい素振りを多く示しました。ブタは犬よりもコンテナに注目する行動が多く見られました。

食べ物の入ったコンテナと飼い主がいる場合、犬はコンテナと飼い主の間で何度も方向転換をしてコンテナに視線を送りました。これは犬が飼い主にコンテナ(中の食べ物)に注意を向けさせようとしているのだと考えられます。

一方ブタは、空っぽのコンテナの時とほぼ同じ行動を示し、犬のようにコンテナと飼い主の間で方向転換する行動はほとんど見られませんでした。

この結果から、犬はコンテナの中の食べ物に飼い主の注意を向けようとする行動=リファレンシャル・コミュニケーションを取ることができると考えられます。

何か特定のものに他者の注意を向けようとする行動は、オオカミ、馬、猫、カンガルーでも確認されています。これらの動物は同種の仲間同士のコミュニケーションの際に視覚に頼っています。これに対してブタ同士のコミュニケーションでは視覚への依存度は低いものです。

これらのことから、リファレンシャル・コミュニケーションは家畜化の結果ではなく、視覚的なシグナルを用いるという特性に基づいていると考えられます。

まとめ

ミニチュアブタとセントバーナードの子犬

犬は特定のものに他者の注意を向けようとするコミュニケーションを取ることができるが、ブタはこのような行動を取らないという調査結果をご紹介しました。

ソファーの下にボールが転がっていって犬には取れない時、ボールのある方向と人間の顔を交互に見て吠えるといった行動は日常的に見られるので、私たちはそれを当然のことのように捉えがちです。

しかしこのような異種間の比較分析によって、特定の行動について必要な特性が明らかになり、理解が深まるのは興味深いですね。

またこの研究結果は犬のほうがブタよりも優れているとか賢いということを示すものではありません。動物はそれぞれの持つ特性によって行動に違いがあり、コミュニケーションの方法もそのような違いを反映しているということです。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-26503-5

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