報酬ベースのトレーニング、嫌悪刺激のトレーニング
犬のトレーニングにはいろいろな方法がありますが、大きく分けると「望ましい行動に対して報酬を与えて行動を強化していく報酬ベースの方法」と、「望ましくない行動に罰を与えて行動を弱くしていく嫌悪刺激ベースの方法」があります。
現代では数多くの研究によって動物福祉の面でもトレーニング効率の面でも、報酬ベースの方法がより効果的であることが証明されているにも関わらず、嫌悪刺激を与えるトレーニング方法は根強く残っています。
嫌悪刺激というと叩いたり蹴ったりする体罰だけに限定して考える人も多く、リードを使ってショックを与えたり「しつけ用」の首輪を使うことは、嫌悪刺激に当たらないと解釈されている例も少なくありません。
引っ張ると金属の爪が犬の首に食い込むプロングカラーや、犬が吠えると電気が流れるショックカラーは、法律によって規制されない限り使う人が後を絶たないのかもしれません。
嫌悪刺激を与える道具を法律で禁止
2023年1月フランスでは国民議会において「電気が流れる道具、制限なく締め付けるループ状の首輪、動物の体に向かって爪がある道具を犬猫に使用することを全面的に禁止する」という法案が可決されました。
これらは主に嫌悪刺激を与える首輪のことを指していますが、脱走防止のエレクトリックフェンスなども対象になっています。
法案可決について、動物保護団体、フランス獣医師協会も歓迎の意思を表明しています。
人間にとって望ましくないと考えられる犬の吠え行動や攻撃的な行動は、その犬がすでに不安や恐怖を感じていることの現れで、それに対して痛みやショックを与える方法は簡単に行動を修正できるように見えるが、実は事態をさらに深刻化させるだけだと言われています。
禁止事項に違反して使用した場合、個人では750ユーロ(約10万5千円)、犬を扱う専門家が違反した場合はさらに重く最高3,750ユーロ(約52万8千円)の罰金が課せられます。
またこれらの首輪や装置を販売した場合、個人では3,000ユーロ(約42万2千円)、法人では最高15,000ユーロ(約211万円)の罰金が課せられます。
「フランスはようやく他の国に追いついた」と認める議員たち
国民議会で可決されたこの法案がフランス上院で承認されると、フランスはドイツ、デンマーク、オーストリア、イギリス、スウェーデン、オーストラリアなど、すでに同様の法規制を実施している国に加わることになります。
フランスでは2021年に動物福祉法を大きく改正し、個人売買サイトやペットショップでの犬猫の売買の禁止、動物の遺棄に対する厳罰化などが対外的にも話題になりました。
また、この福祉法の下では動物を迎える際には、動物を飼うことの経済的および道徳的責任を理解していることを示す証明書に署名しなくてはなりません。
この背景にはフランスがヨーロッパ諸国の中で、動物の遺棄の数が最高ランクであることなどを強調したキャンペーンがありました。
2021年の動物福祉法改正についても、今回の法案可決についてもフランスの賛成派議員は「改正や改善と言うよりも、ようやく他の国に追いついたのだ」と述べています。
現在フランスでは、実際に犬と接することのない2日間の講習だけで犬のトレーナーを名乗ることができます。この点についても法規制を強化する必要があるとすでに複数の議員が言及しています。
まとめ
フランス国民議会で、嫌悪刺激を与える装置や首輪を禁止する法案が可決したというニュースをご紹介しました。
このようなニュースが報道されると「日本も見習わなくては!」という声が多く見聞きされるのですが、見習うべきはその結果だけでなく、どのようにしてそこに到達したのかという過程を知ることが大切です。
動物の遺棄がヨーロッパ最高ランクだったというフランスの暗部にしっかりと向き合う人が増えたことがこの結果につながったとも言えます。日本の場合はどうでしょうか。