子どもは犬に対して協力する能力を見せるだろうか?
人間が社会の中で生きていく時、他者に協力するという能力はとても重要です。協力の基礎になるのは「相手の気持ちを理解し、相手が必要とするものを理解して、相手のためになることを自主的に行う」という能力です。
子どもは2歳までに周囲の人間との関わり合いの中でこれらのことを身につけていきます。では相手が人間ではない他の種の動物だった場合はどうでしょうか?
このたびアメリカのデューク大学進化人類学の研究チームが、子どもの「協力の能力」が他の動物にも発揮されるかどうかを調査する実験を行い、その結果が報告されました。動物は人間にとって最も身近な種である犬が選ばれました。
トリーツやおもちゃを前にした犬と子どもの実験
実験に参加したのは2歳から3歳の幼児97名(女児51名、男児46名)でした。97名のうち44名の家庭で犬を飼っており、53名の家庭では犬を飼っていません。犬は3頭のフレンドリーな小型犬が参加しました。
子どもは保護者といっしょに3頭のうちの1頭がベビー用フェンスの中に座っている実験室に入ります。フェンスには犬用おもちゃやトリーツをやり取りするのに十分な隙間があります。
研究者は子どもに犬を紹介し「すぐに戻るからね」と言い残して実験室を去ります。その際こっそりと犬が届かない場所にトリーツやおもちゃを置いていきます。保護者は少し離れた場所で雑誌を読んでいるふりをしています。
犬はトリーツやおもちゃに対して、無視する場合と自分で取ろうとしたり助けを求める場合がありました。実験は1人の子どもに対して複数回行われ、犬の行動に対して子どもがどのように対応したかが観察分析されました。
幼児は人間以外の動物に対しても手助けをする
子どもたちの行動は明白でした。犬がトリーツやおもちゃを手に入れようとしたり、ねだったりした場合には、50%の割合で子どもはトリーツやおもちゃを犬に与えていました。
一方、犬がこれらに関心を示さず無視していた時には、トリーツやおもちゃを与える行動は約半数の26%でした。
また予想通り、犬を飼っている家庭の子どもは犬に物を与える割合が高くなっていました。しかし全般的にどの子どもも犬にトリーツを与えることに意欲的でした。
これらのことから、子どもの援助行動は人間だけでなく動物に対しても行われることがわかりました。
つまり子どもは2歳という早い時期から、他の動物が何かを求めている行動を読み取ることができ、その知識を利用して動物を手助けすることができるというわけです。
研究者は、子どもたちが犬を助けようとする動機の根底にある感情、これらの動機が文化によってどのように形成されるのか、また発達の過程でどのように変化していくのかなど、種の異なる動物への援助についてさらに研究が必要であるとしています。
まとめ
2〜3歳の幼児たちが、フェンスの向こうの犬がトリーツやおもちゃを取ろうとしている様子を見て自主的に犬の手助けをしたという実験の結果をご紹介しました。
犬と子どもがいる家庭では当たり前のように見ている光景が、このような研究によって人間の社会性の発達の過程であるとわかるのは大切なことです。
また人間が幼少期のうちから他の動物を援助する行動を見せるというのは、人間の進化の重要な形質であるとも考えられるそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1079/hai.2023.0001