美容目的の犬の断耳は違法
本来は垂れ耳の犬種を、幼齢のうちに耳を外科的に切って立ち耳に仕上げることがあります。
断耳(だんじ)とかイアークロッピングと呼ばれる処置で、元々は猟犬が薮の中で耳を引っ掛けたり、番犬が耳を掴まれて怪我をしたりしないようにという予防措置が目的でした。
しかし現代では元々の目的はほとんど消失しており、後に「この犬種はこのような姿をしているべき」と定められた犬種スタンダードのためだけに断耳されていることがほとんどです。(この記事では断耳を取り上げていますが、尻尾を短く切る断尾(だんび)も同じです。)
イギリスを始めいくつかの国では、医療上の必要がある場合以外は断耳や断尾が法律で禁止されています。元々の目的のためとして猟犬や番犬の断耳や断尾も禁止です。
耳に悪性腫瘍ができたために切除が必要など、治療目的以外の断耳や断尾はすべて「美容目的」と分類され禁止されています。
イギリスでは2006年に美容目的の断耳は違法とされたのですが、断耳された犬の輸入規制がないことなどから、断耳の処置を受けた犬が報告される事例が増えています。
上記のような事態を受けて、イギリスのリバプール大学の研究チームが英国内の動物病院の受診記録から、断耳された犬の頭数や傾向について評価した結果を報告しました。
獣医師が断耳済みと記録した犬の数や犬種
調査は小動物獣医療調査ネットワークのデータを用いて行われました。
このネットワークにはイギリス全土の約500の動物病院が参加しており、診察を受けた動物の電子カルテのデータを匿名化して分析や研究のために提供しています。データの共有は飼い主の同意を得ており、主治医が書いた所見も含まれています。
2015年10月から2022年3月の全診察データ800万件以上から断耳に関する表現を抽出したところ153件が特定され、そのうち治療目的の断耳を除くと132頭がこの調査の対象となりました。
132頭中、断耳が記録された時点で1歳以下だったのは約60%にあたる80頭でした。断耳されている犬種は多い順に、アメリカンブルドッグ39頭、ドーベルマン27頭、イタリアンマスティフ17頭、ブルドッグ11頭、マスティフ5頭でした。
63.6%にあたる84頭には輸入されたという証拠が記録されていました。輸入国はヨーロッパの周辺国ですが、これらの国は2017年から2018年に断耳の禁止がスタートしているため、この調査のデータとなっている2015年の時点では断耳が違法ではなかった可能性が高い例が大半でした。
しかし2例は、イギリスで断耳されたという明確な記録がありました。つまりイギリス国内で違法な断耳が行われているという証拠があったということです。
また、調査データ内の断耳の件数は2021年にピークに達していました。この増加の傾向は、イギリスの王立動物虐待防止協会の緊急ヘルプラインに報告されている傾向と一致しています。
調査結果が示す、規制と教育の必要性
調査に使用されたデータは個々の獣医師が記録したものです。動物の違法な輸入や違法な断耳について獣医師には報告する際の手順のガイダンスが提供されており、報告が推奨されています。
しかし報告は法的に義務付けられているわけではないので、違法行為を見つけても記録に残していない獣医師がいる可能性もあり、これは違法な輸入や断耳が実際にはもっと多い可能性を示しています。
結論として、イギリスには断耳された犬が存在しており、その多くが他国から輸入された犬であることがわかりました。これはイギリス国内での断耳が禁止されているのに輸入を制限する規制を設けなかったことに起因しています。
また、断耳された姿が自然な姿だと思っている飼い主が一定数いることも他の研究からわかっています。断耳が犬の身体および精神に及ぼす影響についての研究は少ないため、飼い主向けの正しい情報発信が十分でないことも考えられます。
この調査結果は、法規制の見直し、獣医師への指導、飼い主への教育がさらに必要であることを示しており、調査から得られたデータは政策と教育の両方に活用することが可能です。
まとめ
犬の断耳が法律で禁止されているイギリスにおいて、断耳された犬を輸入する飼い主が一定数存在すること、少数ながら国内で違法な断耳も行われていることを示す調査結果をご紹介しました。
日本では犬の断耳も断尾も違法ではありません。そのため本来は垂れ耳や長い尻尾の犬種なのに、立ち耳や短い尻尾が生まれつきのものだと誤解されている例も少なくありません。
さらにこれらの外科的処置が獣医師以外の手で行われている例もあります。それは言うまでもなく子犬にとって残酷なことで動物福祉を大きく損ないます。
日本国外では断耳や断尾がどのように扱われているのかを知ることで、日本国内の問題を知るきっかけになれば幸いです。
《参考URL》
https://bvajournals.onlinelibrary.wiley.com/journal/20427670