犬のための騒音のガイドラインがない!
大きすぎるボリュームで音楽を聴き続けたり、常に大きい音が聞こえる環境にいると難聴が発症しやすくなることはよく知られています。
これは「騒音性難聴」と呼ばれ、聴覚器官の損傷によって起こります。耳から入った音を神経信号として脳に送る有毛細胞が大きすぎる音(振動)でたわみ過ぎて損傷してしまうことが原因です。
犬の耳と人間の耳は非常によく似た構造でほぼ同じように機能するので、犬も人間同様に大きすぎる騒音で聴覚器官の損傷が起こります。犬の聴覚は人間よりも優れているため、人間よりも小さいレベルでの騒音でも難聴につながるおそれもあります。
人間の場合、大きな音に対する安全なレベルは公的機関や医療機関などのガイドラインが設定されています。しかし人間と同じ環境で暮らしている犬については、このようなガイドラインが有りませんでした。
この度、香港メトロポリタン大学の科学技術学部の研究チームが犬と騒音レベルについての研究結果を発表しました。
犬にとって安全な音のレベルは人間よりも低く設定
音量(音の大きさ)はdB(デシベル)という単位で表されます。静かなオフィスや小さめの話し声が40〜50デシベル。日常会話の声はだいたい60デシベルほどです。
アメリカ環境保護庁でも日本の環境省でも平均70デシベル以下の音は、継続して耳に入って来ても難聴を引き起こさない安全なレベルだとしています。洗濯機、掃除機、エアコン、目覚まし時計の音などのレベルです。
85デシベル以上の音に継続して晒されると難聴のリスクが高くなります。100デシベルでは許容時間は数分で、120デシベルの救急車や消防車のサイレンでは許容時間は9秒です。これらは全て人間にとっての数値です。
研究者は過去のデータに基づいて、人間にとって安全とされる騒音レベルは、聴覚が優れた犬にとっては強すぎる可能性を指摘しています。
犬は単に音をよく聞き取れるだけでなく、人間には聞こえない高周波の音まで聞き取ることができるのですから、犬の周辺の音には尚更気をつける必要があります。
研究者は犬の環境音レベルについて、人間に安全とされるレベルよりも20デシベル以上低く設定するべきだと結論づけています。
犬のための騒音対策は大丈夫ですか?
人間に安全とされるレベルよりも20デシベル低いレベルというと50〜60デシベル程度で、日常会話の声や乗用車の車内の音量がこのくらいです。
テレビや音楽の音を大きめにして、人と会話するのに少し大声を出す必要があるくらいだと犬にとっては音量が大き過ぎるということです。
テレビをつけた部屋に犬がいる時にはクレートに毛布をかけて音を遮ったり、別室に行きたがる時には邪魔をしないことが大切です。犬と一緒に大音量で音楽を聴くのも避けるべきです。
こうして考えると花火や雷の音を犬が怖がるのは当たり前のことですから、可能な限り防音対策に力を入れることが大切です。
騒音によるストレスは言うまでもなく生活の質を低下させます。聴覚が低下すると認知症のリスクが高くなるといった研究結果もありますので、犬と暮らす人は音の対策に真剣に取り組む必要があります。
研究者は「私たちは大きな音が犬の耳に与える危険性を知っているからこそ、犬のために騒音のない生活しやすい環境を整える責任があります」と述べています。
まとめ
犬は人間よりも低いレベルの音量の騒音で聴覚の損傷のリスクが高くなるため、犬の対騒音の安全基準は、人間よりも20デシベルほど低く設定するべきだという研究結果をご紹介しました。
犬の聴覚が人間よりも優れていることは知識として知っていても、日常生活の中で自分が大丈夫なら犬も大丈夫だと思い込んでいる人は多いかもしれません。今一度、生活の中の音を犬の身になって見直す(聴き直す)ことが、犬にとっての安全で快適な環境につながります。
《参考URL》
https://ieeexplore.ieee.org/document/9970899
https://www.psychologytoday.com/us/blog/canine-corner/202212/how-much-loud-noise-can-a-dog-tolerate