犬の攻撃性に関連する要素を調査
犬の攻撃的な行動は、周囲の人間や動物の安全、そして当の犬自身の福祉にも大きく関わるため、犬の望ましくない行動の中でもとりわけ多くの研究が行われています。かつては犬の攻撃性と言えば犬種をベースにした調査や研究が主なものでした。
しかし過去20年ほどの間に犬の認知や感覚に関する研究が増えるにつれ、犬種という生まれ持った要因よりも生活環境などの後天的な要因が関連しているという発表が数多く届けられるようになりました。
この度、ブラジルのサンパウロ大学の心理学の研究チームが犬を取り巻く要因と攻撃性の発現についての調査結果を発表しました。どのような要素が犬の攻撃性や攻撃的な行動に関連していたのでしょうか。
犬を取り巻く要因と攻撃性を調査するためのアンケート
調査は665名の犬の飼い主を対象にしたアンケートをもとに行われました。参加者の愛犬は雑種を含む様々な犬種で、参加者は家庭の中でメインで犬の世話をしている人という条件です。
アンケートの内容は飼っている犬の犬種、性別、年齢、体重などの基本情報の他に、犬の頭蓋骨の形状(主にマズルの長さ)、飼い主の性別や年齢、生活環境などについての質問項目が設定されていました。
犬の攻撃性については、C-BARQという犬の行動解析のための標準化された質問票が使用され、飼い主や家族に対する攻撃性、見知らぬ人への攻撃性、身近な犬への攻撃性、見知らぬ犬への攻撃性などが調査されました。
上記のような質問項目と犬の行動解析から、犬の身体的な形態、環境的要因、社会的要因と攻撃性との関連に焦点を当てた分析が行われました。
明らかな違いを示したいくつかの要因
参加者の回答を分析した結果、身体的特徴(体重や頭蓋骨の形態など)と、環境的および社会的要因(家庭環境、犬の生活履歴、飼い主の性別、飼い主の年齢など)が犬の攻撃性に影響を及ぼしているようだと研究者は述べています。
中でも有意な違いを示していたのは以下の項目でした。
- 1 飼い主が女性の場合、攻撃性を示さない犬の割合は男性飼い主よりも73%多い
- 2 飼い主が男性の場合、攻撃性を示す犬の割合は女性飼い主の約2倍
- 3 メス犬は飼い主に対して攻撃的な行動を示す割合がオス犬よりも40%低い
- 4 頭蓋骨が短い犬は攻撃的な行動を示す割合が頭蓋骨が中程度の犬より79%多い
- 5 体重が重い犬ほど飼い主に対して攻撃的な行動を示す割合が低い
- 6 毎日散歩に行く犬は攻撃的な行動を示す割合が低い
飼い主の性別は単独で犬を飼っている人とメインで犬の世話をしている人を含みます。また4の「頭蓋骨が短い犬」は純血種の短頭種の他にマズルの短い雑種も含みます。
これらの結果は関連性を示していますが、因果関係を示すものではありません。
例えば毎日散歩に行くという要因では、犬が攻撃的であるために散歩に行かなくなったのか、十分に散歩をしていないために攻撃的になったのかは、この調査では判断できないということです。
研究チームは調査の前に「犬の行動は学習や遺伝による影響だけでなく、環境との継続的な相互作用の結果である」という仮説を立てていました。この調査結果はこの仮説を裏付けるものとなりました。
まとめ
犬の飼い主へのアンケート調査から、犬の体重、頭蓋骨形態、犬の性別といった身体的特徴と、飼い主の性別や家庭環境など社会的要因が犬の攻撃的行動の発現に有意に影響していることが示されたという結果をご紹介しました。
過去のよく似た研究では、犬の攻撃的な行動に大きく影響するのは犬が恐怖を感じた時だという報告もあります。今回の研究では因果関係までは明らかにされていませんが、犬が怖いと感じるかどうかを基準に考えるとヒントにつながる点が見えて来そうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2022.105766
https://studyfinds.org/dog-aggressive-owners-behavior/