ザ・ケネルクラブの登録数に出てこない人気犬種の数
ある地域や、ある一定の時期にどの犬種が多く飼育されているかという犬種流行の傾向を把握するためには、公式な犬の登録数が一般的に使用されてきました。イギリスの場合はザ・ケネルクラブの登録数が多くの研究に用いられています。
ザ・ケネルクラブはイギリスの畜犬団体で1873年に設立された最古のケネルクラブです。各国ケネルクラブは犬種の認定、犬種スタンダードの制定などを行なっています。
しかしザ・ケネルクラブの公式な数字と巷で実際に飼われている犬の人気傾向には隔たりがあり、特に公式な数字には福祉が損なわれがちな犬種の動向が表れにくいという面があります。
イギリスのブリストル大学の獣医学校の研究チームは、犬の販売に関するオンラインでのポストのデータとザ・ケネルクラブのデータを比較して分析した結果を発表しました。
フリマサイトで販売されている犬の件数と公式登録数を比較
犬の販売に関するオンラインのデータとして調査対象となったのは、イギリスで人気のあるPrelovedというフリーマーケットサイトです。個人が売りたいものをアップして販売するというサイトで、ペットの売買も数多く行われています。
研究チームは2016年4月から2017年1月の間に同サイトに掲載された犬の販売に関するポスト43,312件のデータを使用しました。このうち生後6ヵ月未満の子犬は31,912件、成犬は11,400件で、これらのデータを犬種別に分類しました。
ザ・ケネルクラブの犬種登録手続きは子犬の登録のために設計されているので、この調査ではオンライン販売の子犬の件数と、ザ・ケネルクラブが公開している犬種ごとの登録数とを比較しました。
オンラインで人気の犬種を把握することの意味
オンライン販売のポストで件数が多かった上位30犬種のうち、最も多かったのは1位チワワ(15.72%)、2位フレンチブルドッグ(12.30%)、3位パグ(8.43%)でした。
これらは公式にも登録数の多い人気犬種ですが、オンラインではさらに高い人気を示していました。またこの3犬種は健康上問題など動物福祉が懸念されている犬種でもあります。
同時期(2016〜2017年)にザ・ケネルクラブに最も多く登録された犬種は、1位ラブラドールレトリーバー(14.63%)、2位フレンチブルドッグ(12.30%)、3位コッカースパニエル(9.59%)でした。ここでもオンラインとの乖離が見られます。
オンライン人気上位3犬種の中でもチワワは、オンラインでのポスト数がザ・ケネルクラブの登録数の7.39倍という、この犬種の隠れた市場がかなり大きいことを示すものでした。
ザ・ケネルクラブでは2005年から2016年の間にチワワの登録数は3.5倍になっており、同じ時期のイギリス国内の動物病院で診察を受けたチワワの数は約5倍になっています。
実際にはこれらの数字を上回る数のチワワがオンライン販売されており、ザ・ケネルクラブの登録データだけでは犬種のトレンドを正確に把握できないことを示しています。
ペットのオンライン販売は今後さらに拡大すると考えられますが、規制を無視した繁殖や輸入など動物の福祉を損なうことも含め多くの問題を抱えています。
オンラインでのペット販売の動向を監視することは、トレンドの変遷、特に福祉が損なわれている犬種や猫種を把握し、獣医師団体などの対策や準備に役立てられることが考えられます。
子犬の販売とは別の側面を持つ成犬のオンラインポスト
オンラインにアップされていた成犬のデータについても分析が行われました。ザ・ケネルクラブでの登録数に比べて、不釣り合いにポストが多かった犬種の1位はスタッフォードシャーブルテリアでした。
他にはシベリアンハスキー、ロットワイラー、秋田犬、ジャーマンシェパード、ビーグルがあり、飼育が容易ではない大型犬が目立ちます。
この件数からは子犬の販売とは全く別の、飼いきれなくなった飼い主によるリホームのためのポストという面が見て取れます。このようなデータはザ・ケネルクラブの登録数からは得ることができません。
成犬のオンライン販売の件数は、動物保護施設やレスキューグループのデータとより密接に関連している可能性があります。
子犬のオンライン販売の監視と同様に、成犬のオンライン販売の犬種動向を監視することで、飼育放棄される犬種の傾向を早期に警戒し対策を立てられるかもしれません。
特にコロナ禍によるロックダウン中に取得された「パンデミックパピー」が成長した現在、オンラインでの成犬の販売ポストには注目すべきだと思われます。
まとめ
イギリスでオンラインでの個人売買のためのフリーマーケットサイトの犬販売のポスト数と、ザ・ケネルクラブに登録されている犬種別の数を比較分析したところ、人気犬種や頭数において公式登録数ではわからなかった面が表れたという結果をご紹介しました。
個人売買のサイトで動物をやりとりすること自体が多くの問題を孕んでいるのですが、動向を監視することで獣医療や動物保護での対策準備に役立てることもでき、これが規制対策につながることも考えられます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1080/10888705.2022.2147008