犬による牛の呼吸器疾患探知の研究
犬がその優れた嗅覚を使って人間の病気を識別して探知する例は数多く発表されており、研究の範囲も広がっています。
ガンや糖尿病、最近ではCOVID19の検査にも探知犬が活躍していますし、人間の病気だけでなく農作物やミツバチの病気を探知するために働いている犬もいます。
そしてこの度はアメリカのテキサスA&M大学の動物科学の研究者チームが、畜牛の牛呼吸器病症候群を犬の嗅覚を使って識別する方法についての研究を開始しました。
牛呼吸器病症候群は、ウイルスや細菌などの病原微生物とストレス等による免疫状態の変調が複雑に絡み合って症状が重篤化する牛の呼吸器疾患です。
アメリカや日本で他のどの病気よりも多くの畜牛の死亡原因となっているため、牛呼吸器病症候群を早期に発見し、治療を開始するための方法を発見することが急がれています。
7ヶ月のトレーニング後のテスト結果
この研究のために同大学で飼育されている2頭の犬が選ばれ7ヶ月にわたるトレーニングを受けました。2頭はどちらもセントハウンドタイプの犬で6歳のメスと4歳のオスです。
牛呼吸器病の兆候を示した牛(陽性サンプル)と、兆候を示していない牛(陰性サンプル)それぞれの鼻腔を拭った綿棒を嗅いで、陽性サンプルの時に合図を示すようトレーニングされました。
トレーニングの後にデータを取るための試験が行われました。2頭のうち1頭は陽性サンプルを偶然よりも高い精度で識別することができましたが、もう1頭は偶然をやや下回っていました。総合的な精度は約54%でした。
各種疾患の探知犬は、病気の組織と健康な組織から発生する揮発性有機化合物のパターンの違いで病気を識別します。今回のテストでは従来の疾患の探知に比べて精度が低いことについて考察が行われました。
研究から明らかになった今後の課題
犬たちは個々の牛のサンプルを区別する能力については高い精度を示していました。このことから犬たちはサンプルが陽性か陰性かの違いではなく、牛による匂いの特徴を掴むことを学習した可能性があります。
犬が識別した陽性サンプルの多くが未去勢の雄牛のもので、陰性サンプルには去勢済みの雄牛が多く含まれていたことから、牛の性ホルモンが犬の識別に影響を及ぼした可能性も考えられます。
またテストの際に、2頭の犬に対して同じサンプルを使用したために臭気の混入が起こった可能性もあります。
牛呼吸器病症候群は単一のウイルスに感染すると発症するという単純なものではなく、ストレスなど環境的要因によって大きく左右される複雑な病気であるため、他の病気に比べて検出が難しい可能性も言及されています。
しかしテストの結果からは牛の性別、サンプルの品質管理の強化、病気と関連したサンプル採取のタイミングの正確性、サンプルの均一性、鼻腔を拭ったサンプルではなく呼気や唾液でのテストなど精度向上のための課題を見極めることができました。
まとめ
畜牛の呼吸器病症候群を識別するための探知犬の研究から、精度の高い識別をするための課題が明らかになったという結果をご紹介しました。
病気を識別する探知犬というと一般の人からは犬の驚異的な嗅覚にばかり注目が集まりがちですが、サンプル採取、トレーニング方法など研究者の方々の緻密な努力の上に成り立っていることがよくわかります。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2022.90215