犬は体を安定させるために尻尾を使っていない?
多くの動物には尻尾があります。チーターやリスなどは体長に比べて長い尻尾を持っており、高速での方向転換や高い場所にいる際のバランスを取るために使われています。
一方、犬を含めてオオカミやキツネなどイヌ科動物は体長に比べて尻尾が短めですが、過去の研究ではイヌ科動物も走ったりジャンプしたりする時に尻尾でバランスを取っていると言われていました。
この度、ドイツのマックスプランク研究所、フリードリヒ・シラー大学イェーナ、アメリカのジョージア工科大学の研究チームが、犬は運動中に体の動きを安定させるために尻尾を使っていないことを発見しました。
この研究結果は学術雑誌に掲載されることを目的に書かれた論文を、査読(論文をその分野の専門家が読んで内容の査定を行うこと)を行う前にインターネットで公開されたものです。
コンピューター上で犬の動きをシミュレーションして検証
研究チームはまずイヌ科の動物の「木に登らない」という特徴に注目しました。つまりイヌ科動物には高いところでバランスを取るための尻尾は必要ないということです。
また、ネコ科動物のように尻尾を広範囲に使ってバランスを取る動物に比べると、犬の尻尾は敏捷性に欠ける点を研究者は指摘しました。
犬の尻尾が運動中の体の安定に役立っているかどうかを調べるため、複数のボーダーコリーに動きを追跡するビーズを取り付けた特殊なスーツを着せて、走ったりジャンプしたりする時の体の動きをモーションキャプチャーシステムを使って記録しました。
さらにソフトウェアを使ってこれらのデータから、犬が四肢や尻尾を動かしたり体幹を使ったりする時に何が起こるかを分析する数学的モデルを作りました。
これによってコンピュータ上で実際の犬と同様の活動を再現し、尻尾を取り外した状態も含めてさまざまなシミュレーションが実施されました。
犬の尻尾の目的はコミュニケーション
広範囲なシミュレーションによる検証の結果、犬たちはバランスを取ったり方向転換をする際に尻尾を使っておらず、動きに関しては尻尾による物理的な作用がほとんどないことがわかりました。
つまり犬の敏捷性には、他の動物ほど尻尾は必要ではない可能性を示しています。
この結果と過去の別の研究結果から、犬の尻尾の主な目的は感情を表現するためのコミュニケーションツールであることが明らかになりました。
これまでの研究では、犬は尻尾を使って、友好、自信、遊びの誘い、相手への宥め、脅威の察知、恐怖や不安などを表現し伝達し合っていることがわかっています。
まとめ
モーションキャプチャーを使って犬の体と尻尾の動きの数学的モデルから検証した結果、犬の尻尾は運動の際の敏捷性やバランスに必要ではない可能性が示されたという報告をご紹介しました。
つまり犬の尻尾の役割はコミュニケーションのための道具であるということです。
犬が怖がっている時に尻尾を脚の間に挟んだり、嬉しい時に尻尾を左右に振ることは一般にもよく知られていますが、実際には犬の尻尾が表現するコミュニケーションはもっと繊細で複雑です。
私たち一般の飼い主が強く心に留めておかなくてはいけないのは、「犬の尻尾の主要な役割はコミュニケーションツールである」という点です。
犬に携わるすべての人が尻尾のコミュニケーションをよく理解することで犬と人間双方の幸福度が高くなりますし、断尾の禁止が呼びかけられることの意味もよくわかります。
《参考URL》
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.12.30.522334v1