過去42年の犬と子どもの関わり合いについての文献を検証
犬と暮らすことのメリットを調査した研究は数多く発表されています。中でも犬と子どもの関わり合いについては、認知機能や社会性の発達を助ける、アレルギーやぜん息の有病率が低くなるなど注目を集める結果が多く報告されています。
一方で、犬による咬傷事故の被害者の多くが子どもであるという悲しい報告があるのもまた事実です。これら犬と子どもの関わり合いについて明暗を分ける研究はそれぞれ別々に行われており、総合的な視点での研究はほとんどありませんでした。
また「犬と子ども」というテーマであっても、その影響についての調査はほとんどの場合が子ども側に限られており、子どもとの関わり合いによって犬にどのような影響が及ぼされるかという調査はほとんどありません。
犬と子どもの相互交流の長所短所を総合的に検証するため、香港城市大学の獣医学部の研究チームが、過去の研究結果を広範囲に検証し調査した結果を発表しました。
研究チームは1980年1月から2022年4月の間に犬と子どもとの関わり合いをテーマにした文献をフィルタリングして最終的に393件の文献を検証しました。
これらの文献の88%は学術論文で、12%は書籍、論説、会議論文などでした。学術論文の大半はヨーロッパ(37%)と北米(37%)のもので、次いでアジア(12%)オセアニア(8%)南米、アフリカ、中東はそれぞれ2%でした。
犬との関わり合いで子どもが受けるプラスの影響
犬と一緒に暮らしている子どもが受けるメリットの最もわかりやすいものは、定期的な運動が増えることです。言うまでもなく定期的な運動は子どもの心と体の両方に有益なものです。
また子どもの身体活動は、犬への愛着レベルが高いほど増えているという傾向も確認されました。簡単に言えば、犬と仲の良い子どもは犬との散歩や遊びの時間が長いということです。
しかし、犬を飼っていることと子どもの体重には明確な関連は見られず、体重に影響するほどの運動にはつながっていない可能性も示されました。
他には犬との関わり合いで子供が受けるメリットは次のようなものがありました。
- 心拍数、血圧を低下させる可能性
- 不安やストレスの減少
- アレルギーやぜん息の有病率の低下
- 攻撃的行動の減少
- 孤独感を癒す
- 責任感や他者を世話するという感覚を育てる
- 4〜5歳では子どもの学習と発達を助ける
- モチベーションを高め、自信をつける
- ティーンエイジャーの脳の発達にも有益
過去の研究の数多くにおいて、犬が子どもの身体と精神の健康を助け、社会性を育てることや脳の発達にも良い影響を及ぼしていることが示されています。
犬との関わり合いで子どもが受けるマイナスの影響
犬との交流の中で最も望ましくない影響と言えば咬傷事故でしょう。これらの事故の多くは、犬が不快を示すシグナルを出しているのに周囲の人間が知識を持っていなかったことに起因しています。
犬を飼う人が増えるにつれ、犬と子どもの交流における安全対策への理解と知識の不足も深刻になっています。子どもへの教育も大切ですが、何より監督する大人への教育が不可欠であるようです。
咬傷事故と同様に、子どもの安全と健康に大きな影響を及ぼすものに人獣共通感染症があります。日本ではピンと来ませんが、世界には狂犬病に感染して亡くなる人が年間何万人もいて、その多くが15歳以下の子どもたちです。
狂犬病のように命に関わる病気ではなくても、不快な症状を引き起こす人獣共通の寄生虫や感染症があるので、公衆衛生教育が重要です。
犬との交流の良い影響にアレルギーやぜん息の低下が挙げられていますが、反対に犬によるアレルギーが引き起こされる場合や、ぜん息が悪化する場合もあります。
また犬と暮らしているとどうしても避けられない死別の時も、子どもにとっては大きな悲嘆と喪失の経験になります。ペットとの別れの際に子どもに適切なサポートをすることで、この経験を糧にすることも可能です。
リスクを上げていくとキリがないのですが、犬と子どもが交流することは必ずしも良いことばかりではないと大人が認識した上で、正しい知識で犬に接することの重要性が改めて浮き彫りになっています。
子どもとの関わり合いで犬が受ける影響
犬が子供に与える影響については、プラスとマイナスの両方が注目を集めているのに対して、子どもとの交流が犬の生活の質に与える影響についてはほとんど注意が払われていないのが現状です。
人間から犬への影響については、ほとんどが成人の飼い主との関係が研究の対象になっています。
しかしある研究では犬が子どもと歩いている時に、子供に歩調を合わせたり同じ方向に歩くと言った行動の同期をするという調査結果があります。これは犬が子供を社会的な仲間として認識している可能性があることを示しています。
大人は犬から子どもへの影響にばかり気を取られがちですが、子ども特有の予期せぬ動きや大きな声、ゲーム機の騒音は犬にとっては嬉しいものではありません。不適切な撫で方や抱き方、犬を人形のように扱って遊ぶことも犬を不快にします。
犬が不快に感じていることを無視したり気づかずにいると攻撃的な行動に転じることもありますので、子どもが犬の周囲で適切な行動をすること、大人が正しく指導することは犬と人間の両方にとって大切です。
まとめ
犬と子どもの交流をテーマにした過去の文献393件を検証した結果から、子どもが犬から受ける影響、犬が子供から受ける影響についての報告をご紹介しました。
犬と子どもの相互交流から得られる可能性のあるさまざまな結果を知ることは、犬と生活することの長所と短所を比較検討するのに役立ちます。
子どもが犬の生活の質に悪い影響を与えることは、大人が正しい知識を身につけて適切に監督することで予防が可能です。犬との暮らしを良いものにするためには犬と子どもの保護者の正しい努力が不可欠だと言えます。
《参考URL》
https://peerj.com/articles/14532/