愛犬のために逃げられないDV被害者への救済
イギリスで最も大規模な犬保護団体ドッグズ・トラストが16年に渡って実施しているフリーダム・プロジェクトというサービスがあります。
これは家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス=DV)の被害者がシェルターなどに避難する際に、愛犬を一時的に預かってくれるボランティアを募集するサービスです。
家庭内で親やパートナーから暴力を受けている人がペットを飼っている場合「この子を置いていけない」という理由で、加害者から離れることを諦める例が多くあります。また加害者がペットへの虐待を使って被害者をコントロールする例も少なくありません。
さらにイギリス国内のシェルターのほとんどは動物の持ち込みを禁止しているという実情もあります。
預かりボランティアによる安全な環境で犬を保護
フリーダム・プロジェクトは、登録しているボランティアの家庭での犬の一時預かりを無料で提供し、飼い主が愛犬の心配をせずにシェルター利用できるようにするものです。
犬たちは飼い主が安全な環境で再び一緒に暮らせるようになるまで、預かりボランティアの家庭で世話をされます。
犬のためのフード、ベッド、医療費などはすべてプロジェクトを実施している団体が負担するため、預かりボランティアは犬に対して、時間と場所そして愛情を提供することだけが求められます。
預かりボランティアは常時募集されており、数多くの人が登録しています。一般的な保護動物の一時預かりのメリットに加えて、動物だけでなく困難な状況にいる家族全体への助けにつながることにやりがいを感じている人も多いようです。
他のペット保護団体や被害者支援団体との連携
ドッグズ・トラストはその名の通り犬を専門に保護している団体なので、このプロジェクトは犬を対象に行われています。同団体は猫保護団体、DV被害者とペット支援団体と連携して活動しています。
中でもエンデバー・プロジェクトというNPO団体は、DV被害者とペットを支援するスペシャリストです。エンデバー・プロジェクトは1997年に、イギリス初のDV被害者のためにペット一時預かりサービスを開始しました。
複数の団体が連携していることで、イギリス国内の広い範囲をカバーすることができます。また犬専門、猫専門、犬と猫以外のペットと担当を分けることで、動物に関する専門的な知識とリソースを共有し、一時預かりボランティアを見つけることが簡単になります。
ドッグズ・トラストや連携団体はペットの一時預かりだけでなく、一般向けおよびDV被害者サポート団体向けのセミナーなどで、このサービスの知名度を上げることにも力を入れています。
そのおかげでソーシャルワーカーを通じてペットの一時預かりがあることを知り、無事に逃げることができた被害者もいるとのことです。DV被害者によるペットの一時預かりの申込は年々増えているそうです。
家庭内で暴力を受ける人がなくならないのは悲しいことですが、サービスが周知されて生活を立て直すチャンスを得る人が増えるのは、被害者とペットだけでなく社会全体にとって利益をもたらしていると言えます。
まとめ
イギリスで実施されている、DV被害者が避難する際に愛犬や愛猫を一時的に預かるサービスをご紹介しました。
このような事例を見ると、動物福祉を尊重することは人間の福祉に密接に結びついていると実感させられます。
海外の話ではありますが、家庭内での虐待は日本も含めて社会全体の大きな問題です。自分には直接に関係がなくても犬や猫のことを通じて問題意識を持つ人が増えることが、事態を正しい方向に進めるために必要です。
《参考URL》
https://www.dogstrust.org.uk/how-we-help/freedom-project
https://www.cats.org.uk/what-we-do/paws-protect
https://www.endeavourproject.org.uk