犬の認知研究のための新しい研究室がスタート
犬の認知についての研究は世界中で数多くの研究者が携わっています。そしてこの度はカナダのブリティッシュ・コロンビア大学にHuman-Animal Interaction Lab(ヒトと動物の相互作用研究室)が2022年9月正式にスタートしました。
この研究室は、カナダ・イノベーション基金とブリティッシュコロンビア州学術開発基金とカナダ政府の資金援助を受けて整備され、研究室を訪れて協力してくれる動物たちの快適さを最優先して設計されています。
研究室ではまもなく、ペットの犬とその飼い主たちを迎えて研究に参加してもらう予定です。その際に飼い主から参加同意書をもらうことはもちろんですが、犬自身が研究に参加する意思があるかどうかを継続的に評価します。
犬が全プロセスを通じて積極的に参加する意思を示しているかどうかが重要で、犬が嫌がったりストレスの兆候が見られた場合にはすぐに実験を中止します。研究への参加は飼い主だけでなく、犬の同意を得る必要があるということです。
犬の行動と理由を知ることで保護犬の福祉改善にも
犬の認知の研究と言われてもなかなかピンと来ないものですが、具体的には「ある行動」についてなぜ犬がそのようなことをするのか、犬の個体間の違いをどのように判断するのかについて、より深く理解することが研究の目的です。
このような研究が役立つ例のひとつに、動物保護施設で暮らしている犬の福祉の改善があります。保護施設の中で見られるいくつかの行動をする犬はなかなか新しい家族に引き取られないことがわかっています。
これらの行動があるからと言って良い家庭犬になれないということは全くありません。ただ犬が元気にしている様子が譲渡希望者の目に留まらないとチャンスが遠のくというだけです。
これらについては、施設の担当者が「人が通りかかった時にはトリーツのカケラを投げ入れる」ことを繰り返すと、犬は誰かが来た時にはトリーツを期待して顔を向けて近寄って来ます。これで譲渡率が上がり、犬があたたかい家庭で暮らせる確率が高くなります。
また人間が犬に「遊ぼう!」というジェスチャーを示した時に、犬が応じるかどうかは譲渡率を大きく左右します。
これについても、人間のどのような誘い方をした時に犬が遊びに応じたかを知ることで、保護施設の訪問者に適切なアドバイスを与えることができます。
犬がどのように世界を見て学習しているのかを知ることで、犬の行動リハビリテーションに役立ち、保護動物の行動上のニーズを満たすためのリソースや知識を向上させることにもつながると考えられています。
セラピードッグプログラムの研究も
この研究室では教育現場でのセラピードッグのプログラムについても研究を実施していく予定だそうです。
セラピードッグの研究では人間側の利益の追求に重きが置かれる傾向があります。最近ではセラピードッグのストレスを考慮した研究もいくつか報告されるようになりましたが、それらはまだ少数です。
この研究室では動物介在教育において重要な役割を担っている犬の幸福度を高め、犬と子ども双方の利益のために、セラピードッグの活用方法を改善することも計画しています。
人間のために働いてくれる犬が幸せでなくては本末転倒ですから、これらの研究に期待が膨らみます。
まとめ
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で新しくスタートした犬の認知研究のラボについてご紹介しました。
動物福祉のための研究に国や州政府が資金を投入していること、動物保護施設のために本格的な科学研究が行われていることなど、羨ましい点が沢山ありますね。このような研究の結果が発表されて、日本でも取り入れられることに期待したいと思います。
《参考URL》
https://news.ubc.ca/2022/09/20/new-canine-lab-seeks-four-legged-research-participants/