スリランカから、犬が飼い主に及ぼす影響についての調査報告
「犬と暮らすと健康に良い影響がある」「パンデミック時の気持ちの落ち込みを犬に助けられた」など、犬が人間の心身の健康にポジティブな影響を及ぼすことについては、数多くの調査研究が発表されています。
しかし、それらのほとんどは西欧諸国または東アジアからの発信で、その他の地域(特に発展途上国や農村地帯)からの調査研究というのは見受けられないのが現状です。
しかしこの度、スリランカのペラデニヤ大学獣医病理生物学の研究チームによって、犬を飼うことが飼い主やその家族の健康に及ぼす影響を調査した結果が報告されました。
調査参加者一人一人を訪問してのデータ収集
調査の対象となったのは、スリランカのアヌラーダプラという地域の農村地帯の犬の飼い主でした。年齢は40歳以上65歳未満、同地域に5年以上住んでおり、3頭以下の犬を飼っている人という条件です。
24名の飼い主がこの調査に参加し、研究者は参加者の個人宅を訪れ、一人一人へのインタビューによってデータを収集しました。
愛犬との関係や家族のメンバーへの影響について聞き取り調査を行う他に、家庭での犬と飼い主の関わりを実際に目の前で観察することができ、データ数は少ないもののきめの細かい調査が行われたと言えます。
調査参加者が飼っている犬は合計40頭で、そのうち9頭が集落犬(雑種)で9頭がジャーマンシェパードと、この2犬種が最多数でした。
次いでロットワイラー8頭、ポメラニアン6頭、ラブラドール4頭と続き、リッジバック、日本スピッツ、ダルメシアン、コッカースパニエルが1頭ずつでした。
犬から受ける恩恵は世界共通
多くの参加者がインタビュー中も愛犬と一緒にいて、可愛がったり自慢したりといったどこの国の愛犬家にも共通する仕草が見られました。
飼い主は愛犬に対して優れたレベルの注意を払っており、同時に愛犬からも優れたレベルの注目を受けていることが観察されました。
犬と暮らすことで得られた健康への良い影響として次のようなものが挙げられました。
- 世話をする喜び、犬から受ける愛情によって精神的な幸福度が上がる
- 侵入者や蛇などに対して警戒してくれることで安心感が得られる
愛犬との触れ合いによってストレスの軽減や精神的な満足感を得ているという点は、既存の諸外国からの報告と一致していました。またこの調査では、愛犬から健康上のネガティブな報告はほとんど聞かれませんでした。
犬を飼うことで受けたネガティブな影響として挙げられたのは次のようなものでした。
- 家の掃除がたいへんになった
- 気軽に旅行に行けなくなった
- 費用がかかる
- 将来愛犬を失うことへの恐れ
また西欧諸国では見られない集落犬(決まった飼い主がおらず、集落の誰かから食べ物をもらって自由に生活している犬たち)を家庭に迎えた人の話を聞くことができたのも、この調査での収穫のひとつだったと研究者が述べています。
集落犬の飼い主は事故に遭った犬を助けたり、道端の犬に食べ物を与えたことがきっかけで彼らを迎えており、集落犬を飼うことに対して積極的でした。
しかし一部の参加者は、「集落犬はせっかく迎えても家から出て行ってしまうのでペットとして理想的ではない」と答えました。
集落犬を家庭に迎えることは専門家の間でも「迎えるべき」「集落犬は人間の干渉を必要としない」と意見が分かれています。
今回の調査で集落犬と良い関係を築いている飼い主の経験は、集落犬を飼うことへの意欲を促進する可能性があります。そのためには自治体による不妊化手術提供などと併せて丁寧な指導が必要であるとしています。
まとめ
スリランカの農村地帯で犬を飼っている人を対象にしたインタビューから、多くの人が愛犬からストレスの軽減や精神的な幸福感などのポジティブな影響を受けているという調査結果をご紹介しました。
犬の飼育に関する情報について、インターネットで手に入るスリランカの言語での情報がまだ少ないため、正しい情報提供は今後の課題のひとつです。
愛犬から受ける恩恵はどこの国の人も同じなのだなというのは簡単に予想できることですが、それでもやはり嬉しくなる結果ですね。
《参考URL》
https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-022-14863-6