1.においセンサーの役割
一般的に、鼻は乾いた冷たい外気を体内に取り込む際に、加湿して温める働きがあります。また、鼻腔の奥の方にある嗅上皮細胞でにおいを感知する働きや、鼻粘膜や繊毛で体内に空気中の異物が入ることを防いだりする働きがあります。鼻腔内でとらえられた異物は、鼻水などと一緒に排出されます。
このような鼻の働きは、犬も人も大きくは変わりません。しかし、犬は人よりもにおいを感じる能力が圧倒的に高いと言われています。実際、犬たちが頻繁に確認するのは、におい情報です。
においを嗅ぐ力は、鼻腔の奥にある嗅上皮という粘膜の広さと、そこに存在する嗅細胞の数によって決まります。人の嗅上皮に比べて犬の嗅上皮はヒダが多く、表面積は人の10~50倍。嗅細胞の数も人の500万個に対し、犬は約2億個もあるため人よりずっとにおいに対して鋭敏なのです。
嗅ぎ取る能力はにおいの種類によって異なりますが、犬の嗅覚は人の1000倍~1億倍といわれています。これは、『空気中を漂うにおい分子の濃度が1000分の1になっても嗅ぎ取れる』という意味になります。すごく少ないにおい分子でも、犬は鼻でキャッチすることができるのですね。
このにおい物質は、地面や物体に付着している場合もあれば、空気中を漂っている場合もあります。どちらのにおいをキャッチしやすいかは、犬種によって差異があるそうです。中でもハンターに伴われるガンドッグは、空中のにおいをキャッチする能力に長けています。
この能力は警察犬や救助犬、麻薬探知犬として利用されるだけでなく、がんや低血糖など特定の病気の人が発する呼気のにおいを判別したり、てんかん発作の兆候を探知したりするなど、様々な用途に用いられています。
これだけでも犬の鼻のすごさが分かりますが、近年ではこのほかにも犬の鼻にセンサーの役割があることが分かりました。
2.赤外線センサーの役割
スウェーデンとハンガリーの共同研究グループにより、近年になって『犬の鼻には赤外線センサーの働きがあるらしい』ということが分かりました。
こちらの研究では3頭の犬を用意し、2つの選択肢がある物体について、より温度が高い方を選べるように訓練しました。その後、においも見た目も同じで温度だけが違う2つの物体を準備し、犬に暖かい方を選ぶように指示したところ、犬たちは1.6メートル離れたところから暖かい方を選ぶことに成功した、ということでした。
犬の鼻は、通常は冷たく湿っています。この状態は外気より冷たく、温熱を感じる細胞がとても敏感になっている状態なのだそうです。熱を探知するためには、この鼻の温度が冷たく、探知する対象と温度差がある程度あることが重要です。
またMRIで犬の脳の活性を検査したところ、熱を感じた場合は嗅覚や聴覚とは異なる脳の部位が活性化していることが分かりました。つまり、「熱を感じる」「探知する」という能力は、従来の感覚を処理する部位ではなく、全く別の系統の処理がなされている可能性が高いということです。
このような熱探知能力は、犬が獲物を狩る際に効果を発揮したといわれています。オオカミが遠いところから獲物を見つける能力に長けているのは、鋭敏な嗅覚とともに、この熱探知能力があったことが理由のようです。また、獲物が新鮮かどうかも、鼻先で感じる温度で判断しているとも言われています。
まとめ
犬の鼻の能力については、まだまだ研究の途中です。今回ご紹介した赤外線探知のほかにも、いずれもっとすごい能力が発見されるかもしれませんね。
上記研究グループをはじめとして、各国の犬の研究グループから発表される続報を楽しみに待ちたいと思います。