イビザンハウンドとリーシュマニア症
イビザンハウンドはスペイン・ケネルクラブと国際畜犬連盟によって公式に認められた32のスペイン犬種の中で最も古い犬種です。原産地はスペインのバレアレス諸島で、地中海沿岸地域やフランスなどにも多く分布しています。
イビザンハウンドの原産地や分布地には、リーシュマニア症という人畜共通の寄生虫疾患が多く見られます。リーシュマニアは原虫の一種で、この原虫に感染したサシチョウバエという小型のハエが動物や人間の血を吸う際に感染します。
リーシュマニア症の潜伏期間は数ヶ月〜数年と長いのですが、発症した場合は生命に関わる病気です。症状は下痢、嘔吐、皮膚の発疹や潰瘍、眼疾患、関節炎、腎不全と多岐に渡ります。
イビザンハウンドは猟犬種なので、サシチョウバエに刺される可能性も高く感染リスクの高い犬種です。しかしこの犬種は、リーシュマニア症の有病率が低いことは過去の研究でわかっています。
イビザンハウンドの有病率の低さの理由を調査
過去の研究でイビザンハウンドがリーシュマニア症に罹りにくいことはわかっているのですが、その機構まではわかっていませんでした。
このたびスペインのカルデナル・エレラ大学獣医学部の研究チームが「なぜイビザンハウンドはリーシュマニア症の有病率が低いのか」について調査を行いました。
研究チームは28頭のイビザンハウンドから血液サンプルを採取し、DNA抽出と全ゲノム解析を行いました。その結果、免疫反応、免疫系の制御、サイトカインおよびその受容体をコードする遺伝子に関連する変異が発見されました。
血液サンプルからは血清サイトカインの解析も行われました。サイトカインとは主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞同士の情報を伝達し免疫細胞を活性化させたり抑制したりすることで免疫機能のバラスを保つ役割を担っているものです。
イビザンハウンドのサイトカインは他の犬種とは異なることがわかりました。
イビザンハウンドが持つ特異な免疫反応
研究チームによる解析の結果は、イビザンハウンドが他の犬種とは違う特異的な免疫反応を示すことを明らかにしました。
このことがリーシュマニア症の低い有病率、および他の感染症に対する抵抗性にも関連している可能性がありますが、詳細については今後さらに研究が必要だということです。
イビザンハウンドがリーシュマニア症に罹りにくい一方で、ドーベルマン、ボクサー、フォックスハウンド、ナポリタンマスティフなどの犬種ではリーシュマニア症に罹りやすいという研究結果もあります。
疾患の予防や治療の方法を開発するためには何が感染の重症度に影響するのかを知ることが重要です。イビザンハウンドがリーシュマニア症に罹りにくい機序についての手がかりが掴めたことは大きな進歩だと言えます。
幸い日本ではリーシュマニア症はほとんど見られないのですが、海外旅行から戻った人やスペインから輸入された犬での発症例が報告されています。症例が少ないため発見や治療が遅れるリスクも高いため決して軽視はできません。
まとめ
スペイン原産の犬種であるイビザンハウンドは、地中海沿岸地域の風土病であるリーシュマニア症に罹りにくく、免疫学的および遺伝学的な分析調査によって、同犬種は免疫反応の制御が他の犬種とは違うことがわかったという報告をご紹介しました。
今のところリーシュマニア症の予防はサシチョウバエに刺されないよう防虫対策を万全にすることくらいしかないのですが、この研究がさらに進めば効果的な予防法の開発につながるかもしれませんね。
《参考URL》
https://parasitesandvectors.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13071-022-05504-3