犬は忘れっぽい?
しつけは、愛犬自身のために非常に重要なもので、人と一緒に暮らしていくためには避けて通れないものです。そのため、しつけに頭を悩まされているご家族も多いのではないでしょうか。
中でもよく耳にするのは、「やっと覚えたと思ったらすぐに忘れてしまった」ということです。犬には賢いイメージがあると思いますが、本当に覚えたしつけをすぐに忘れてしまうのでしょうか。
私たち人間にも、ほんの数分で忘れてしまう記憶はありますので、特別犬が忘れっぽい動物だというわけでもないでしょう。ではなぜ、犬は覚えたしつけを忘れてしまうと感じることが多いのでしょうか。今回は、犬がしつけを忘れてしまう理由や、また覚えさせるコツについてご紹介します。
犬がしつけを忘れてしまう理由
では、犬がしつけを忘れてしまう理由には、いったいどのようなものがあるのでしょうか。
1.実は覚えていなかった
実際にはまだ愛犬が覚えていなかったというケースがあります。
「あれだけ何回もトレーニングしたのだから、今回の成功は覚えた証に違いない」と思うかもしれませんが、たまたまだったのかもしれませんし、まだ定着したわけではなかったのかもしれません。
2.覚えたときと状況が異なっていた
犬は、経験したことをその状況とともに覚えています。つまり状況が変わると、記憶した経験と関連付けられなくなることがあるのです。
例えば、いつも室内でトレーニングしていた場合、別の場所、例えば公園や動物病院だとできないということがあります。
3.記憶が上書きされてしまった
人間の場合、過去に辛いことを経験しその後良い経験をすると、両方の記憶を残しておけます。しかし犬の場合、過去の記憶を消して現在の記憶で上書きするといわれています。
虐待を受けた犬が、新しい家族を信頼して幸せに暮らせるのは、人間に対する嫌な記憶が上書きされたからだと考えられています。
つまり、せっかくしつけてもその行動と嫌な経験が新たに結びつくと記憶が上書きされ、しつけが消えてしまうこともあるということです。
また覚えさせるコツ
こちらでは、忘れてしまったしつけをまた覚えさせるためのコツをご紹介します。
トレーニングは何度も繰り返す
トレーニングはとにかく何度も繰り返しましょう。覚えたからといって止めてしまわずに、その後も時々復習し、長期記憶として長く定着させましょう。
繰り返し復習することで、脳は必要な情報だと判断し、長く記憶しておくでしょう。
さまざまな状況でトレーニングを行う
いつ、どこででも指示に応えられるよう、さまざまな状況でトレーニングを行いましょう。
いつもの場所だけではなく、道路・公園・動物病院などのさまざまな状況で指示に応えられるようにすることが大切です。
悪い記憶を楽しい記憶で上書きする
身についたしつけを悪い記憶で上書きさせないように、ご家族全員が統一したルールに従った反応を返しましょう。
万が一しつけを悪い記憶で上書きしてしまった場合、根気よく最初からしつけをし直して、もう一度悪い記憶を楽しい記憶で上書きしましょう。
記憶の種類と定着の仕方
犬のしつけをスムーズにするために、記憶の種類や記憶が定着する仕組みについて簡単に整理しておきましょう。
感覚記憶
外界の刺激を脳が一旦受け取って貯蔵し、「生きていく上で重要ではない」と判断された情報は1秒程度で失われてしまう場所で「感覚記憶」と呼ばれます。
「何らかの意味がある情報だ」と認識された情報は、次の短期記憶へと送られます。
短期記憶
脳で受け取った情報で一時的に「必要なものである」と判断され、ごく短い時間だけ保存される記憶です。
多くても7つくらいまで、覚えていられる時間も10〜15秒、長くても1分程度といわれています。さらに必要性の高い情報だと認識すると、長期記憶へと送られます。
長期記憶
脳で受け取った情報で「必要なものである」と判断され、短ければ10〜30分、長ければ数十年〜半永久的に保存される記憶です。
長期記憶は、さらに以下の3つに分類されます。
- 手続き的記憶
何度も繰り返すことで身につけた記憶で、人間の場合は礼儀作法や演奏技術などが、犬の場合は「オテ」や「オスワリ」などの動作が該当します。
- 意味記憶
言葉の意味や一般的な知識が該当します。犬もいくつかの単語の意味を覚えます。
- エピソード記憶
経験した出来事と、その時の状況や感情が思い出として残る記憶で、無意識に記憶され思い出されます。
特に、怖いとか楽しいといった強い感情が関わることで、記憶に残りやすいといわれています。
効果的なしつけには記憶の仕組みの理解が必要
しつけたことを覚えさせるには、しつけたことを長期記憶として定着させなければなりません。この仕組みを理解していると、しつけの基本といわれる内容も納得できるでしょう。
「しつけは何度も繰り返して行うこと」といわれているのは、与えた情報を必要なものだと認識させ、手続き的記憶として定着させるためです。
「叱るのも褒めるのも、対象となる行動をした直後でなければ意味がない」といわれているのは、短期記憶が残っている1分程度までの間でなければ、何に対して叱られたり褒められたりしたのかが理解できないからです。
「しつけの基本は褒めること」といわれているのは、モチベーションを高めるためでもありますが、ポジティブな強い感情を伴わせることで、エピソード記憶としてしっかりと記憶に残そうという意図からでもあります。
まとめ
しつけとして身についた行動は、長期記憶として定着します。しかし、最初から長期記憶が形成されるわけではありません。一瞬で消えてしまう感覚記憶や10数秒で消えてしまう短期記憶で終わってしまう情報の方が多いのです。
長期記憶として定着させる仕組みを理解することが大切です。ポイントは、繰り返しトレーニングすること、さまざまな状況でトレーニングすること、身につけた内容を打ち消すような記憶で上書きしないことです。