人間は生き物同士の社会的状況をどのくらい読み取れる?
私たち人間は、場の空気を読んだり相手が好意的か否かを判断したりと言った他者との社会的な関係や状況を、言葉以外の様々な情報から読み取って判断しています。
これは動物たちも同じで、目の前にいる相手が好意的か攻撃的かを判断することは生き残るための重要なスキルです。
このたびドイツのマックス・プランク人類学研究所のイヌ研究グループを中心としたマックス・プランク・ヒト発達研究所、フリードリヒ・シラー大学イェーナ校、ライプツィヒ大学との研究チームが、人々がヒトの子供、犬、サルの社会的関係や状況をどのくらい読み取ることができるかという調査を行い、その結果を発表しました。
3種の生き物の関わり合いを見て状況判断する実験
調査に参加したのは19歳から73歳の92名(男性30名、女性62名)でした。参加者はビデオクリップを観て、そこに映し出された状況を「攻撃的」「友好的」「中立的」のどれかに分類する、またはビデオクリップの結末を予測するという課題を与えられます。
参加者たちは2つのグループにランダムに分けられ、1つのグループは状況を分類、もう1つのグループは結末を予測しました。
参加者は27本のビデオクリップを観て課題に取り組みます。ビデオは「2人の子ども(1歳〜10歳)」「2頭の犬」「2頭のバーバリーマカク(サル)」の同種同士のペアが「攻撃的」「友好的」「中立的」のどれかの状況で関わり合っている様子が映し出されています。
参加者はそれぞれの種の表情、姿勢、行動から状況を分類または予測します。
この課題において、状況分類グループはすべての種において偶然に予想されるよりも高い正解率を示し、結末予測グループは50〜80%の正解率を示しました。
参加者たちが苦手だった項目とは?
参加者たちは全般的には高い正解率を示したのですが、子どもと犬の攻撃的な関わり合いの評価は他の項目に比べて正解率が低く、特に成績が悪かったのは犬の攻撃的行動についてでした。
研究者は実験の前に「参加者は犬の攻撃的行動や状況を評価することに長けているだろう」と予想していたのですが、実際にはその逆の結果が示されました。
研究者はこの結果について、「人類の最良の友」である犬の行動に対してバイアスがかかっている可能性があり、このバイアスが攻撃的な状況を認識するのを妨げていると指摘しています。
子ども同士のビデオについても、幼い子どもであるという点で同じように攻撃的な状況への認識が弱くなった可能性があります。
人々が犬の攻撃的行動を見極めて予測することは咬傷事故防止のために重要です。そのため人間が犬同士の相互作用を観察する際にどのような手がかりを頼りにして判断しているのかを知る必要があります。
研究者はこの点についてさらに研究が必要であると述べています。
まとめ
「2人の子ども」「2頭の犬」「2頭のサル」がお互いに関わり合うビデオから状況や行動を判断するという実験において、人々は犬の攻撃的行動を見分けることが苦手だったという結果をご紹介しました。
人間にとって最も身近な生き物である犬についてのこの結果は意外とも言えますが、身近であるためにバイアスがかかると言われるとなるほどとも思えます。
犬の咬傷事故防止というと犬の行動ばかりが注目されがちですが、人間が犬の行動をどのように判断しているのかを客観的に知ることはとても重要です。今後さらに掘り下げた研究結果が届くのを待ちたいと思います。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0277783